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海よりも深い青 その25

彼は女神の倒れそうな身体を支えながら、耳元で囁く。
「……女神テティス。 貴女が傷付く事は無い。
……貴女は悪くない」
「カストール……」
初めてあった頃を思い出すテティスの言葉。
心を壊してからは彼女は闘士の名前を決して口にはしなかったのに……。
彼は思わず海妃の前だと言うのに、彼女を抱きしめてしまう。
「だから、苦しむ必要はない……」
そう言ってカストールの手から光が零れた後、テティスは気を失った。

★★★
神殿の外は既にクラーケンの海将軍と牡羊座の黄金聖闘士しか人の気配はなかった。
巻き込まれ傷ついた海闘士たちもいたが、それ以上に被害を被ったのは居る筈のない天上界の闘士たち。
彼らは海底神殿の傍にある牢屋に放り込まれていた。

「時間切れだ」
いきなり二人の間に突き刺さる黄金の槍。
お互いに相手しか見えていない状態だった闘士たちは、直ぐさま拳を引っ込めた。
気が付くと少し離れた所でクリシュナが立っている。
「決着をつけられなかったという事は、腕が鈍ったか……」
牡羊座の黄金聖闘士は、そう言って神殿の方へ歩き出す。
「……」
「少しは役に立ったか?」
その言葉にクラーケンの海将軍は目を見開いた。
「……すまない……」
クラーケンの海将軍は彼を利用した事を素直に謝罪したのだが、相手の反応は意外なものだった。
「……パラス様に恩義を感じているのは海闘士だけではない。
ただ、我々はこういう形でしか、あの方の役には立てない。
だから自分に出来る事をしたまでだ」
女神アテナの親友にして海皇の孫娘。 少なくとも今まで大々的に海世界と争いを起こさずに済んだのは、女神パラスの力に負う所が大きい。
「……ところで、あの娘はどうしている」
牡羊座の言いたく無さそうな口調にクラーケンの海将軍も苦笑いをした。
「元気だ。 以前よりも落ち着いてきている」
すると彼は
「……そうか……」
と呟くと、今度は振り返りもせずに神殿へと歩いて言った。
★★★
しばらくして海底神殿へ現れた海皇は、神殿内の様子を知っていながらも、
『霊廟の封鎖はしばらく延長する』
と言っただけだった。
この言葉にセイレーンの海将軍は逆に不安を覚えてしまう。
すると海皇は機嫌が良かったのか、少々多弁になっていた。
『海の者ゆえ荒っぽいが、悪意は無いと天上界に言っておいた』
そう言い残し、海闘士たちの主は再び気配を消してしまう。
セイレーンの海将軍は深々と頭を下げた。
★★★