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海よりも深い青 その24

長いようで短い決別の儀式。
カストールは直ぐに立ち上がった。
ネーレイスたちの一柱がパラスを静かに抱き抱えると、女神ペルセポネに会釈をして、その場から立ち去る。
冥妃は一瞬手を伸ばしたが、そのまま直ぐにてを引っ込めた。
そして最後に残った海の女神は、海妃アムピトリーテとテティスの二柱。
テティスは自分の姉とカストールの顔を交互に見て戸惑っている。

★★★
「海妃様に冥妃様。
実は今の神殿はお二方を迎えるに相応しくない状態です」
海将軍たちが散々暴れ回ったのである。 正直言って無傷の状態とは言えない。
すると女神ペルセポネの方では、このまま地上の母神のもとへ戻るという。
無理に行って冥王を心配させるよりも、母神の所に行って友の為に悲しんでいる方が事態が素早く鎮静化するという判断だった。
冥妃は結局海底神殿へは行かなかった。
それゆえに海の魔物に襲われなかったし、海底神殿の騒ぎも知らない。
危険は無かったのだから、冥王が怒りにかられて冥闘士たちを動かす理由は無い。
それで良いと冥妃は言う。
カストールはワイバーンの冥闘士を見たが、彼は特に表情を変えず、静かに冥妃の後ろに立っていた。
ただ、冥妃が再び光の姿になりワイバーンのラダマンティスがその光を抱えて立ち去ろうとした時、彼はカストールに名前を尋ねた。
「北大西洋を守護するシードラゴンの海将軍。カストール」
すると冥闘士は、
「覚えておく」
と言ってその場から離れた。
★★★
「……シー……ドラゴン?」
テティスはそう呟いた後、いきなり目を見開いてガタガタと震え出す。
アムピトリーテは妹の身体を支えるが、テティスは真っ青な顔でカストールの事を見ていた。
「……私の所為であの子が……」
自らを責める言葉。
この時カストールとアムピトリーテは、テティスが記憶を取り戻し駆けている事に気が付く。
海妃は妹に『貴女の所為ではない』と言うのだが、テティスは既に自分を呪う言葉を呟き始めていた。
どうしようかと困惑する海妃。
カストールは二柱の女神に近付く。
そしてアムピトリーテから女神テティスを受け取ったのである。
★★★