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海よりも深い青
その23 |
女神テティスは鱗衣をまとうカストールを見た時、一瞬だけ表情を変える。 「……」 奇妙な沈黙。 だが、カストールは何事も無かったかのように、女神テティスに冥界からの客が来た事を告げた。 冥妃ペルセポネは岩影に寄り掛かっている友を見つけると、急いで駆け寄る。 目覚める事のない友。 その悲しげに泣く声に、海の魚たちが集まり始めた。 そして美しい鱗を持つ魚たちは、次々と神々しい女神の姿へと変貌を遂げる。 海の老人と人間達から慕われるネーレウスの娘達である。 「お姉様方……。 お願い……。パラスを匿ってあげて……」 すると彼女達は頷いたのである。 ネーレイス達の一柱がカストールの方を向く。 耳に心地よい声で、彼女はカストールに今回の一件について語り始めた。 |
実はパラスは今でこそ何の反応も示さないが、厳密に言えば死んだわけではないのである。 女神アテナもまた武神なのだ。 彼女はとっさに急所を外していた。 だが、親友を手にかけたショックは、女神アテナの心を壊すのに十分だった。 本当なら回復させて女神アテナを安心させるのが良いのに決まっているのだが、女神パラスは大神ゼウスから狙われている身である。 これ以上女神アテナの傍に居させる事は、逆に女神パラスの身を危うくさせる。 だからこの事件を期に、ネーレイスたちは悲運の女神を隔離させる事にしたのだ。 それこそ学友である冥妃ペルセポネにも会わせない覚悟で……。 ただ、パラスが直ぐにでも目覚めるのかは、ネーレイスたちにも判らないという。 明日か100年後か、それとも1000年後か。 もしかすると、もっと時間がかかるかもしれない。 それでも希望があるから嬉しいと彼女達は言う。 間に合って良かったと、冥妃ペルセポネは涙を零していた。 大神ゼウスに反旗を翻すのかと言われかねない行為。 だが、彼女は最後に一目、同じ師匠の元にいた身として別れを言いたかったと言った。 |
カストールは黙って聞いていた。
今や海の女神達は天上界との闘いも辞さない覚悟で、大事な海の至宝を守るつもりなのである。 もしかすると海皇の出方次第では、自分達は彼女達を捕らえなくてはならない。 いつか起こるであろう戦乱の火種。 カストールはその場に片膝をついて、恭しく女神達に頭を下げた。 「全ての海闘士たちはパラス様の恩と情を決して忘れません」 この時カストールはシードラゴンの鱗衣が震えている事に気が付く。 だが、どんなに慕っても、もう会わない事が自分達に出来る唯一の方法だった。 |