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海よりも深い青 その18

薄暗い霊廟の中央に置かれているのは女神の柩。 その上には人魚姫の鱗衣が乗っていた。
『彼女』は女神パラスと一緒に行動しようとしたのだが、女神を守る為に囮になって欲しいとカストールに説得されたのである。
向こうは詳しい情報を既に手にしていると最初から考えた方が良い。
人魚姫の鱗衣が無ければ、敵は柩の中に女神が居ないと勘づくかもしれないと。
カストールにそこまで言われてしまうと、人魚姫の鱗衣としては霊廟に戻らざるを得なかった。
自分の認めた主を守る事は、鱗衣の使命なのだから。
でも、女神テティスが、
「今、我慢してくれたら、後で迎えに行く」
と約束してくれたのである。
『彼女』はその言葉だけで、女神にまた会える事を確信した。

★★★
それと対照的なのは、シードラゴンの鱗衣。
柩の下で『彼』は、じっとカストールの声を待っていた。
だが、主は自分を呼ばない。
『シードラゴン。
お前はここに居るんだ。 いいな』

あの時何故、人魚姫の鱗衣のように自分の主の後を追わなかったのだろうか。
シードラゴンの鱗衣は早くこの命令が終わる事を願う。
でないと、このまま次の命令が来なくなってしまいそうな気がしたからだ。
主人を追いかけると言う命令違反をするには、シードラゴンの鱗衣は少々物分かりが良過ぎる性質だった。
★★★
二柱の女神たちを敵の目にさらすわけにはいかないので、斥候役をスキュラの海将軍がやっていた。
女神テティスは、その力を使えば相手に気付かれる恐れがあると言われて大人しくカストールの後をついてゆく。
彼女はカストールが女神ニュクスの関係者であると言う事で信頼しているのである。
会話が成立しているだけに、彼は遣り切れなさが込み上げる。

前を歩いていたスキュラの海将軍が立ち止まった。
「この先にかなりの実力者が居る。 静かにさせるのに少々時間を食うだろうから、カストールはこの隙にテティス様を連れて神殿の外へ出ろ。
ここまで来れば後は外へ出るだけだ。 一直線にネーレウス様の神殿を目指すんだ」
「……判った」
やや緊張気味にスキュラの海将軍は女神の方を向く。
「テティス様。カストールを見失わないで下さい」
微妙な言い回しを知ってか知らずか、彼女はにっこりと笑う。
「大丈夫です。この方は直ぐに見つけられます」
二人の海将軍は、この無邪気な返答に複雑な表情をした。
★★★