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海よりも深い青 その17

常に冷静であり続ける。
クラーケンの海将軍が今の地位に就く時、女神と約束した事はこの一言だった。
もともとクリュサオールの海将軍とカストール以外の五名は正直言って、海将軍の地位に付けて良いのか疑問が残る生まれや暮らし方をしていた。
それらを知っているのは同じ海将軍たち以外、海皇と海妃、そして女神パラスの三柱の神々のみ。
だから今回の一件では、誰もスパルタの王子を責めなかった。
それは本当に女神テティスとカストールの事で、女神パラスが追い詰められたとは思えなかったからである。
彼女なら女神テティスとカストールの想いを成就させる為に、何がなんでも生き続けた筈だから。
心優しい海の至宝は武神だったのだ。
守るべき者達の為に振るわれる力に勝てる敵など居ない。
自分や他の海将軍たちが何度も断っても相変わらず楽しそうにやって来て説得する程、女神パラスは前向きな思考の女神だった。

★★★
「考え事をするとは余裕だな……」
牡羊座の黄金聖闘士が目の前で技を振るうのを、彼はとっさに身体を横に移動させる事で避けた。
既に二人の闘いは小競り合いという言い方で済む問題ではなく、周囲の至る所に破壊の傷跡があった。
本来、お互いに証拠が残るような破壊行動をするわけにはいかないのだが、最高の好敵手との戦闘状態という事で力の抑えが効かない。 破壊力のある技が避けられるたびに、背後で人の叫び声が上がる。
その度に牡羊座の黄金聖闘士は、薄く笑う。
クラーケンの海将軍も思わず笑った。
お互いに小競り合いと言う形で、天上界が秘密裏に配置させた闘士達を一掃していたのである。
「どうやったら貴様を痛めつけられるか、考えている所だ」
そう言いながらもお互いがお互いに最高レベルの闘士ゆえ、勝敗はつかない。
ただ、それよりもレベルの低い闘士達が怪我をするだけである。

しかし、何故牡羊座がそのような事をするのかが、クラーケンの海将軍には疑問だった。
★★★
「どうやら神殿内に、数名侵入したらしい」
シーホースの海将軍は部下の報告に薄く笑った。
この混乱に乗じて侵入する程の闘士ならば、天上界でも指折りの実力者である事は想像に難くない。
ならば一直線に霊廟を目指して貰う事にした。
今や空っぽの柩は囮である。
だが、向こうに空である事を察知されて逃げられるわけにはいかない。
今まで怒りをぶつける場所の無かった彼らである。
既に天上界の闘士達を無傷で外へ出すつもりは無かった。
元々、此処に居る筈の無い闘士達である。こちらに非があると責められる筋合いではない。
「では、こちらも迎え撃つとしましょう」
セイレーンの海将軍は、霊廟前から離れた。
「あの二人が居てくれて助かったな……」
シーホースの海将軍はそう呟いた後、霊廟の中へ入った。
★★★