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海よりも深い青 その16

「……もしかすると天上界の使者は何かしらの呪具を隠し持って来ている筈だ」
カストールの言葉に、二人の海将軍は眉を顰める。
そんな三人の様子を、女神テティスは不安げに見ていた。
「呪具?」
「略奪が失敗に終わった時の保険だ。
どんなものでどのような効果があるのかは見当がつかないが、きっと使者はパラス様の柩に近付こうとする。
目を離さないでくれ」
これが年若い少年の考える事だろうかと二人の海将軍は思ってしまう。
だが、こうでなければ身内に存在する敵から自分と弟妹達を守れない環境にいたと、海将軍達は生前のパラスより知らされていた。
スパルタの王子が幼少どれ程過酷な環境にいたのか。
スキュラとセイレーンの海将軍は今それをハッキリと知った。

★★★
「承知しました。 では、使者については他の海将軍達にも伝えておきます」
そう言ってセイレーンの海将軍は部屋から出て行く。
「さて、向こうがもうそろそろ騒ぎを起こす。
我々もここから移動しよう」
女神テティスからカストールは女神パラスを受け取る。
彼女はカストールの言葉には素直に耳を傾けるようになっていた。
「急ごしらえの計画だから、事態の予測が付きにくい。
テティス様はカストールから離れないで下さい」
スキュラの海将軍の言葉に彼女は鱗衣をまとっていない少年の顔を見た。
カストールは何かを誤魔化すかのように、スキュラの海将軍に話しかける。
「ところで、上手く向こうが乗ってくれるのか?」
「向こうがお膳立てしたんだ。
クラーケンが牡羊座に喧嘩を売るのは、向こうにとっても予定のうちだから大丈夫だ。
ただ、そのレベルはこっちで決めさせてもらうが……」
そういった直後、彼らは何処か騒ぎが起こったかのような人々の叫び声を聞いた。
思わず女神テティスはカストールの服の裾を掴んだ。
★★★
海将軍のみならず誰もが想定していた小競り合いは、神殿の前で発生した。
因縁の相手である牡羊座の黄金聖闘士を北氷洋の守護者であるクラーケンの海将軍が攻撃したのである。
ただ、おかしな事に一緒に来ていた牡牛座が何の行動も起こさない。
ただ、彼は案内された部屋に座っていた。
天上界からの使者はウロウロと落ち着きを失って牡牛座を詰問したりするのだが、彼は相手にしない。
それどころか
「無闇に部屋の外に出ると、怪我をしますぞ」
と何かを知っているかのような発言をする。
使者はギロリと相手を睨み付けるしかなかった。
★★★