☆ |
|
| ☆ |
海よりも深い青
その13 |
カストールは一見、何も無い部屋の中へ入った。
|
「……」
奪われまいと大事な者を抱きしめている女神。 カストールは一瞬、絶句してしまう。 「何故……、判ったの……」 問われて、彼の心がチクリと痛む。 以前の女神なら、もう既に知っている事だからだ。 「……俺の母は女神ネメシスの依代だ。 その方の母神に当たる女神ニュクスは、俺と弟が呪術によって殺される事がないように力を無効化する術をかけてくれた。 既に古い時代の術がかけられている以上、新しい時代に作られた術は俺には効かない」 テティスはじっとカストールの顔を見る。 「ニュクス様……?」 彼女が反応したのは太古の女神の名前だった。 「そうだ」 その時、背後でスキュラの海将軍が声を上げる。 「いったい今まで何処におられたのですか!」 そして部屋の中に入ってきた時、再びテティスは怯えるような表情になった。 「ダメ。この子は渡さない!」 身を縮こませて、女神は奪われまいとする。 人魚の鱗衣が前に立ちはだかった。 |
カストールは腕を横に伸ばして彼に止まるよう指示する。
「カストール!」 「とにかく、ここは俺に任せてくれ」 最年少の海将軍の言葉に彼はその場に立ち止まる。 「……テティス様。 これから冥妃ペルセポネ様と大神ゼウスの御使者がこの海底神殿へいらっしゃいます。 パラス様を霊廟へお連れ下さい」 カストールは彼女を刺激しないように注意深く話しかけた。 だが、彼女は泣きそうな表情で首を横に振った。 「ダメ……。 大神ゼウスはこの子を未来永劫捕らえ続けるつもりよ……」 女神の言葉に二人の海将軍は驚く。 「な、何をバカな事を……」 スキュラの海将軍は気を取り直すが、カストールは厳しい眼差しのままだった。 「……どう捕らえ続けようと言うのですか?」 彼が否定的な事を言わなかったので、テティスは視線をカストールの方に向ける。 「判らない……。 でも、あの方ならやりかねない……。 お願い。 この子をネーレウスのお姉様達の所へ連れて行きたいの。 お姉様達なら、この子を守ってくださるわ」 何処まで信じて良いのか判らない女神の言葉。 だが、カストールの気持ちは決まっていた。 「……では、私もお供します」 もう一人の海将軍が驚きの声を上げた。 |