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海よりも深い青 その12

「この事を正式に海皇様の耳に入れば、海皇様はテティス様を咎めなくてはならないし、姉である海妃様の立場が悪くなる」
何よりも女神パラスの一件で、海の女神であるネーレイスたちは海将軍や海闘士たちに怒りを感じていた。
ここで迂闊な事をして海妃アムピトリーテやテティスを追い詰める様な事をすれば、本当に彼女達は海皇から離反しかねない。 そうなれば天上界が海世界をメチャメチャにするのは分かりきっている。
彼らは敵ではないという振りをしているだけで、決して味方ではない。
隙あらば海世界をも支配下におこうと、常に虎視眈々と様子を伺っているのだ。
それにこの事が公になれば、自分達だけではなく水域全ての神々たちまで無能だと言いがかりを付けられかねない。
セイレーンの海将軍はカストールの言葉に頷くしかなかった。
「……ただし、何処まで誤魔化せるか私としてもハッキリした事は言えません。
それにペルセポネ様たちが来れば、霊廟に案内しないわけにはいきません。 それだけは覚悟して下さい」
カストールは首を縦に振るとその場から走り去った。
「貴方はどうしますか?」
セイレーンに言われて、スキュラは彼の肩を叩いた後、その場から離れる。
「面倒な事は全部押しつけてくれたみたいですね」
彼は溜息をつくと、神殿の最深部へと向かった。

★★★
カストールは、まだ自分が確認していない場所を走る。
女神が術を使って自分の姿を隠しているのは、他の闘士たちが見つけられないという事で確実となった。
こうなると幾ら宿命として海闘士になったとはいえ、基本能力は普通の人間である部下達には手に余る。
彼は神殿内の廊下を走り続けた。
(だが、俺にだけは姿隠しの術など何の意味も持たない)
彼はそのうち、ある部屋で異様な雰囲気を察知した。
★★★
「ならば女神に尋ねてみる事だ」
クリシュナの静かな口調。 異次元牢全体が、ガタガタと揺れた。
相手は動揺している。
「クリシュナ殿!」
彼の言葉にクラーケンの海将軍は驚く。
しかし、クリシュナは気にせずに言葉を続けた。
「この海世界を守りながら、女神を探し出すのだ。
今と同じような宿命の下に女神が生まれていれば、命を懸けてその宿命から救い出す。
居る筈が無いと思うのなら、居ないという証明をしなくてはならない。
それまではどんなに辛くとも海将軍としての責務を全うするのだ。
逃げてはならない。
これは気が遠くなる闘いだ。
何しろ自らの運命との闘いなのだから。
だが、それくらいの事何でもないだろう」
初代クリュサオールの海将軍は沈黙する。
クリシュナは彼が先程よりも落ち着きを取り戻した事を知った。
もしかすると彼は自分の怒りを受け止める敵が欲しかっただけかもしれない。
(それでもクリュサオールの鱗衣が選んだ主なのだ。 愚かしい真似はしないだろう)
話す事はもう無くなったので、クラーケンの海将軍に話しかける。
彼は牢内の同胞に、また来ると言ってクリシュナを外へ案内した。
★★★
ところが彼らは外へ出た時、海闘士とは違う気配を感じた。
「予定より早いな……」
クラーケンの海将軍は呟いたが、どうも人数が半端ではない。
向こうは巧妙に気配を隠してはいるが、海は海将軍達のテリトリー内である。
海という空間そのものが、彼らに招かれざる闘士の存在を教えていた。
★★★