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海よりも深い青 その4

「……まだ、シードラゴンの鱗衣をまとえないのですか?」
セイレーンの言葉に、シードラゴンの海将軍であるカストールは沈黙した。
シードラゴンの鱗衣は自分の望みの代償があまりにも大きくて、女神の死後、霊廟から離れようとしない。
それ故に彼はまだ鱗衣から認めてもらえていないような状態だった。
「しかし、カストールが鱗衣無しというのも拙いな」
どうしたものかとスキュラの海将軍が腕を組んだ時、一人の海闘士が真っ青な顔をして部屋に駆け込んだ。
「大変です! 霊廟に侵入者です」
その言葉に、五人の海将軍達は青ざめた。

★★★
彼らが慌てて霊廟に向かうと、見張りについていた筈の海闘士たちが気を失って倒れていた。
そして霊廟の中には青い光りをまとった二人の男が、幾人もの海闘士たちに囲まれて床に腰を下ろしていた。

誰もがその男達を見て困惑している。
その理由は直ぐに判った。
「誰だ。お前達は……」
彼らは牢屋に閉じ込めていた筈の、クリュサオールとリュムナデスの鱗衣をまとっていたのである。
そして二人は、カストールと目が合った途端に、
「シードラゴン!」
と、指を差して驚きの声を上げた。
「知り合いか?」
他の海将軍に聞かれたカストールだが、知っている筈が無かった。
★★★
そして問題はそれだけではない。
柩の中が空っぽなのである。
誰もが謎の二人を怪しむ。
だが、侵入者が本物の鱗衣をまとっているのである。
何がなんだか判らないと言うのが、彼らの正直な気持ちだった。

その時、目を覚ました見張り役の海闘士たちの証言で、霊廟に強引に入ったのは女神テティスである事が判る。
そして彼女は女神パラスをここから連れ出すと呟いていたと言う。
「あの方を早く見つけろ!」
来て欲しくない客が、もう直ぐこの海底神殿にやって来るのだ。
上手く納めないと、客達はあることない事を自分達の主に報告しかねない。
それでも構わないと思いながらも、やはり女神パラスとの最後の言葉である
『何があっても、自分の事で決して争わないで……』
と言う約束は守 りたいと彼らは考えた。
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