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海よりも深い青 その3

海底神殿内のとある部屋には、5名の海将軍が揃っている。
「時間が無いな……」
セイレーンの海将軍が溜息をつく。
「だからと言ってクリュサオールとリュムナデスを牢から出す事は出来ない。
あの二人はパラス様に心酔していた。
出した途端に天上界からの使者と黄金聖闘士を攻撃するぞ」
シーホースの海将軍も腕を組んだ。
「しかし、海将軍が2人も欠けていたら、やはり謀叛の疑いをかけられるだろう。
別に困りはしないが、パラス様との約束を反故するのは避けたい」
スキュラの海将軍が隣に居た青年の方を見る。
「……聖域から牡羊座と牡牛座を寄越すくらいだ。
ここで騒ぎを起こしたいのだろう」
クラーケンの海将軍の眼差しに険しい光りが宿った。
「……あの一件で、牡羊座は俺達を目の敵にしているからな……」
苦笑するシーホース。
「あの時、娘は親に裏切られて自分の兄すら信じる事が出来なくなっていた。
牡羊座が一緒に脱出させた所で、あの娘の心が休まるわけがない」
「まぁな。小競り合いを起こした時、敵である筈のクラーケンの手を取ったくらいだ。
既に地上に未練は無かったのだろう」
スキュラに言われて、クラーケンは複雑な表情をした。
「とにかく、クリュサオールとリュムナデスは牢から出せない。
誤魔化すしか無いだろう……」
今まで沈黙していた海将軍が口を開く。
他の将軍よりも年若いシードラゴンの海将軍は、鱗衣をまとってはいなかった。

★★★
『起きて下さい。パラスさま……』
シードラゴンがそう願った時、霊廟の扉が静かに開く。
★★★
「ここに居たのね……」
霊廟に入ってきたのは女神テティス。
自分の恋が可愛がっていた子を死に追いやったという事実に、彼女は心を壊してしまった。
『テティスさま』
虚ろな女神を見た時、シードラゴンはその異様な様子に驚く。
「パラス。ここに居たら危ないわ……」
そう言って女神テティスは、柩の蓋を開けたのである。

『テティスさまぁ〜』
マーメイドの鱗衣は女神に近付く。
だが、女神テティスの視線は柩の中の女神に注がれていた。
「さぁ、行きましょう……」
そう言って彼女は女神パラスの亡骸を抱き上げると、そのまま霊廟から出て行ってしまう。
『私も行きます!』
その後を追いかけるマーメイドの鱗衣。
シードラゴンはどうしたらいいのか判らず霊廟内に取り残されてしまった。
そんな彼の背後の壁が、急にグニャリと歪んだ。
★★★