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事件を調べるのならば現場百遍というわけではないだろうが、結局星矢と邪武は再び町へ行くことになった。 記憶が思い込みへと変化する前に、記録に残そうというのだ。確かに思い出す方は、それなりに状況を説明しやすくはなる。
問題の野外マーケットに行ってみると、不気味な店主の居た場所には別の男性が小物を売っていた。 「本当にここなの?」 瞬が邪武に尋ねる。 「そうだ。確かにこの場所だ」 しかし、それとなく店主に尋ねても、彼はこの場所で毎日店を出していると答えて、逆に瞬たちのことを怪訝そうに見ていた。 そこへ星矢がやってくる。 「瞬、邪武。昨日昼食をとった店が見つかったぞ」 そこの食べ物屋の店主は、さすがに星矢たちのことを覚えていた。 「ダイダロスさんが奢ってくれるそうだ」 時間的にはお昼をやや過ぎたころだろうか。瞬と邪武は自分たちが空腹だったことに気がついた。 そのとき、星矢の肩を叩くものが居る。 「えっ……」 振り返って見ると、そこに立っていたのはアイアコス。その後ろには見知らぬ男がいる。星矢たちはその人物が冥闘士であることに気がつく。 「アイアコス!」 「なんで!」 「どうして、ここに!」 星矢、邪武、瞬は、ほとんど同時に叫ぶ。 「ちょうど良いところで会った。双子座は一緒か?」 アイアコスの後ろにいる冥闘士は、何かを諦めているような表情になった。 |
「それでペガサスたちに伝言を託して、ここでずっと一人で飲んでいたのか?」 目の前に広がるのは、デスクィーン島に新しく出来た湖。夕方の赤い空を映して輝いている。 突発的なアイアコスの誘いにサガは何事かと思ってしまった。しかし、相手は酒とツマミを持って待っているといい、どうにも深刻さに欠けている。 話を聞いたミロなどは「何かの罠だ」と言い、逆に自分が行くと言い始めた。たが、サガの方でも気になることがあったので、一人でデスクィーン島に向かう。細かい場所は不明だが、彼にはなんとなく見当がついていた。 「よく見つけることが出来たな。気配を消したはずだが」 ガルーダの冥闘士は楽しそうに笑った。しかし、サガはニコリともせずに答える。 「お前が水に関わる存在ならば、無意識にでも水辺を選ぶと思っただけだ」 するとアイアコスは口元では笑みを浮かべながらも、険しい眼差しでサガを見た。 「偶然だ」 彼は不機嫌な様子で、酒を一気に呷ったのだった。 夕暮れの空には、少しずつ星が見えようとしている。 「ところで私に何の用だ?」 「雑談したかっただけだ。その証拠に冥衣はまとっていないだろう」 そう言ってアイアコスはサガのカップに酒を注ぐ。彼はその香りから、外国のものだと判断した。 「あのドラゴンの鱗は人を魔物にする。怪我を治そうなどという甘い考えで使用すれば、人外を量産することになる。こっちを煩わせるようなことをするなよ」 「心得た」 「それとマーケットにいたのはドラゴンを飼っていた男の行動を確認するためだが、結構面白いことが分かった」 サガは酒のツマミも勧められたが、それは断る。毒を盛られれるというよりも、ツマミそのものが正体不明だったからだ。しかし、アイアコスは平気で食べている。 「面白いこと?」 「奴を倒したとき、記憶の一部が見えた。奴はスパルタ王家の縁戚だったそうだ」 「……」 サガの表情が、スッと険しくなる。 「奴はスパルタ王の地位を狙ったが、当時の王の奸計によりドラゴンのエサになりかかった。ところが向こうの方でも餌を運んでくれる人間を欲していた。利害の一致により、奴はドラゴンの手下になったそうだ」 「権力に依存するものは、どのような立場にいても同じことをする」 「まぁ、こんな話を聖域でするのも面倒だ。双子座はディオスクーロイの片方だろ。あとは上手くやってくれ」 ディオスクーロイの言葉に、双子座の黄金聖闘士は裏の意味を察した。 (父王がカストールや妹たちを守るために、ドラゴンを利用していたことを知っているということか) 妹たちに求婚する乱暴な者たちを排除するには、人食いドラゴンは非常に役に立った。ただ、父王はカストールにそれを知られることを警戒していた。もしこの事が兄に知られれば、彼は犠牲者を増やさないためにもドラゴンを倒してしまいかねない。 実際に今では、ドラゴンは何の関係もない人々を餌にしていたのだから。 (今回はヘレネが引き金だったということか……) エスメラルダの姿を見て、敵は太古の記憶を呼び起こしたのかもしれない。憎っくきスパルタ王家の血筋が来ているということで、復讐のチャンスだと思っただろう。結局は聖闘士たちによって滅ぼされてしまったが……。 「気遣い、感謝する」 原因が判明していれば、情報を操作することは可能である。彼としてはエスメラルダを怖がらせたり悲しませるようなことはしたくない。彼女は幸福であるべきなのだ。 ところがアイアコスは礼を言われて、何かに驚いたかのように双子座の黄金聖闘士を見ていた。 「俺の作り話を信じるのか?」 彼は面白そうに笑う。だが、ディオスクーロイの片割れもまた、不敵な笑みを浮かべていた。 「立場上、簡単に信じるわけにはいかないが、その意味は理解している」 「……」 「ここは、天に弓引く水域の女神が現れた島だからな」 その後、急に会話は途切れる。アイアコスは怒りを押さえているかのような表情で湖を見つめていた。 |