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烙妖樹 その15


★★★

聖闘士たちに事件の処理は任せて、カノンは海底神殿に戻る。
(……)
彼は執務室で禍々しきドラゴンの鱗を眺めた。本体とは違い、鱗は清らかな輝きを放っている。
そこへスキュラの海将軍イオがやって来た。

「シードラゴン。戻ったのか」
「あぁ。今、戻った」
イオは誰かを探すように執務室を見回す。
「あいつは?」
「冥界へ戻った」
「そうか……」
アイアコスの攻撃で怪我をしたのはイオの部下だが、今回のことについては海闘士たちの勇み足も否めない。足止めすれば良いものを冥界三巨頭の一人を倒そうとしたのである。最初から実力に差がありすぎて、こうなることはイオ自身にも分かりすぎるくらい分かっていた。
だが、やはり潜在的に怒りは燻っているらしい。その表情は険しかった。
「向こうは最優先事項があったから戻っただけだ。しばらくしたら、また来るだろう」
「わかった」
「それよりも、これに見覚えはあるか?」
カノンはイオにドラゴンの鱗を渡す。
「なんだ、これは? ずいぶん綺麗な石だな」
「石ではない。人の血を覚えたドラゴンの鱗だ」
スキュラの海将軍は鱗とカノンの顔を交互に見た。
「ドラゴン自体は倒したが、テュポンとエキドナの子の一体ではないかという話が出ている」
そう言ったのはポリュデウケースだが、カノンはこの情報が嘘ではないような気がした。
イオはしばらく鱗を眺める。碧色の不透明な水晶を思わせるそれはキラキラと光っていた。筆頭将軍の説明が無かったら、そこまで血なまぐさいものとは誰も思わないであろう美しさだった。
「とにかく、そのドラゴンに餌を運んでいた奴が居る。ジュリアン=ソロがそいつらと接触するとやっかいだ。セイレーンに気をつけろと言っておいてくれ。あとは全海闘士たちにも通達だ」
神話時代の生き物が現世に現れる。カノンは不意に天上界の闘士である少年を思い出した。

『これから先、海龍の海将軍が誰を選ぶのか。海皇なのか聖域の武神なのか、もっと面倒な存在なのか。 その結果によっては、自分たちは敵にも味方にもなる』

もしかすると彼らが関わっていたのだろうか。しかし情報はあまりにも少なく断言は出来ない。分かっているのは、ドラゴンを今まで生き長らえさせた者が確実にいるという事実だけだった。