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烙妖樹 その10


★★★
魔獣たちを倒しジュネを救う。 その方法が見つからず聖域側では焦れていたが、オルフェがダイダロスを連れてきたことで状況に変化が見えた。
ところがダイダロスは黄金聖闘士たちの協力を拒否したのである。 拒否されたのはアルデバラン、サガ、アイオリアの三名で、他の黄金聖闘士たちは任務などで聖域を離れていた。 だが、魔獣戦を苦手とするタイプではない。これには瞬も驚いたが、黄金聖闘士達の方がもっと驚いた。

「先生! どうしてですか」
しかし、オルフェは特に驚いてはおらず、アンドロメダ島から一緒に来た瞬の兄弟子たちも当然だという顔をする。 一気に雰囲気が悪くなったのを取りなしたのはアルデバランだった。
「ダイダロス。カメレオン座を救うのにお前たちだけでやろうというのか?」
「その方が、後々問題が避けられますから」
「問題?」
「あとでジュネを寄越せと言われたら、何の為にあの子を瞬へ嫁がせたのかわからなくなります」
この爆弾発言に、黄金聖闘士たちは驚きを通り越して呆然としてしまった。
「お前ら、そんな悪どいことをやっていたのか!」
アイアコスのツッコミに彼らは首を横に振る。
「先生。どういうことですか!」
初めて聞く話に瞬も表情が凍りついた。 このとき、オルフェはダイダロスたちが言いにくいであろう事情をあっさりと説明する。
「……何も黄金聖闘士達がそういう発言をしたわけじゃない。彼らの名をかたって、聖域関係者が何度もジュネをダイダロスの所から取り上げようとしたんだよ。それを拒否するごとに、ダイダロスの評判は悪くなっていった」
これが原因で、聖域とアンドロメダ島で暮らす聖闘士たちとの間に軋轢が生まれた。
「女の聖闘士は、色々な意味で貴重だったんだ」
裏事情があったからこそ、ダイダロス達は追い詰められたのである。 全員の視線がサガに移ったが、ポリュデウケースは女性聖闘士に対して特別な敵意は持ってはいない。 これについては、完全に聖域関係者が暴走したのだ。彼は止めなかっただけである。
しかし、黄金聖闘士達の協力を得られた方がジュネを救出できる確立は高くなる。それは確実だった。
「ケフェウス座。今は過去の遺恨など棚上げしておけ。俺とサガは、エスメラルダを巻き込んだ奴らを叩きのめす権利と義務がある。お前が拒否するのなら、こっちで勝手に関わらせてもらう」
妹分が魔獣のエサにされそうになったのである。彼らの怒りを否定すれば、ダイダロスは当時の聖域と同じになってしまう。
「わかりました。あなた方を信じます」
師匠であるダイダロスが了承したので、彼の弟子たちにも異論は無かった。
★★★
「まずはジュネを見つけましょう」
ダイダロスは簡単に言うが、それが一番難しい話である。なにしろ呪術の痕跡がないのだ。
「方法はあるのか?」
アイオリアが尋ねる。ダイダロスは頷くと、瞬の方を向いた。
「瞬、ネビュラチェーンで敵ではなくジュネを捜すんだ」
「えっ」
「今の段階で、お前以上にジュネと関わりの深いものはいない。あの子の小宇宙の気配を探り、姿が見えたらネビュラチェーンを傍まで飛ばすんだ」
それが道しるべとなってくれると言う。
「あとは速さに自信のある者たちがジュネを助け出す」
瞬は当初その案に不服だったが、ネビュラチェーンが二つの空間をつないでいないとジュネと助けに行った聖闘士が戻ってこれなくなってしまう。彼は納得するしかなかった。
ただ、この方法も問題があって、魔獣たちに侵入する闘士たちの存在が知られてしまう可能性がある。 しかも闘士たちが敵対するのならまだいい。一番困るのはチェーンの速さに闘士たちが後れをとって、ジュネの身を危うくすること。でも、瞬にスピード調節をしろとは言いにくい。チェーンが彼女の傍まで来れば、それはそれで守れる可能性が出てくるのだから。
ただし、魔獣たちの性質が不明なので楽観は出来ない。
「スピード勝負なら、俺が行こう」
いつの間にかガルーダの冥衣をまとって、アイアコスが一歩前に進む。
「魔の空間への耐性は、お前たち聖闘士よりも俺の方がある」
魔獣の隠れている場所などは、確かに長く動ける可能性は冥闘士の方にある。そこへ、もう一人の聖闘士がやってきた。
「瞬。俺もジュネを助けに行く!」
それはペガサスの神聖衣をまとった星矢だった。