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烙妖樹 その7


★★★
星矢たちが急ぎ足で聖域に向かっていた頃、オルフェは不意の来客に眉をひそめていた。 アンドロメダ島から戻ってきたばかりの彼は、恋人の淹れてくれたお茶を飲んで寛いでいたのである。 客を連れてきたサガはというと、彼が恋人との語らいを邪魔されたことに怒っているのだと察した。
だが、今回はそのまま沈黙を守る。カノンもまた然り。
客であるアイアコスはというと、平然とユリティースの淹れた茶を飲んでいた。
「──とにかく、こっちに入ってくる情報では特に呪術関係はないです」
「そうか……」
すると、隣の部屋からユリティースが不安げに彼らのことを見ていた。
「どうしたんだ。ユリティース」
オルフェが席を立ち、恋人の方へ近付く。 二人は隣の部屋で何かを小声で喋っていたが、しばらくしてオルフェがユリティースを連れてきた。
「どうかしたのか?」
サガが尋ねると、ユリティースは最近聞いたという話をしはじめた。
「少し前の話なのですが、外出をしていた神官の方が奇妙な話を聞いてきたのです」
それは強力な治癒効果を発揮する薬草を、どこかの業者が仕入れたというものだった。
話が曖昧すぎるので、他の神官や女官たちも眉唾モノだと最初は笑っていた。 ただ、やはり薬草関係を扱う者たちは、聖戦やギガントマキアの直後ということもあって存在するのなら手に入れたいと考える。ということで、どのような業者なのか調べたのだが、どういうわけだか購入者のほうが行方知れずになるというのだ。
この結末に胡散臭いという印象がついてしまい、関係者は購入しようという気が失せてしまったのだった。
「強力な治癒効果を発揮する薬草……」
アイアコスは亡者の言っていた「驚異的な速度で傷を治す葉」という言葉を思い出す。 本当にそのような薬があるのだろうか。 もし本当にあったら、人間にとっては夢のような薬かもしれない。
(少なくともオルフェは恋人のために探しかねないな)
何しろユリティース恋しさに冥界にまでやって来た男なのだ。 だからこそ、恋人の方はこの薬草話に危険な香りを感じ取り、オルフェに言えなかったのではないか。
購入者が行方不明になっているという話も、この男には意味がないのだから……。
アイアコスは腕を組んで考え込む。 今はその情報そのものが自分の求めるものなのかが分からない。
他に何かあるかと彼女に尋ねようとしたとき、少し離れた場所から強烈な殺意の存在を感じた。
これにはサガやカノン、オルフェにも異常事態の発生だと分かったらしい。 彼らはすぐさま外へ出る。
ユリティースはすぐに玄関のドアを閉めて鍵をかけた。 戦う力のない自分が恋人のために出来ることは、安全圏にいることだけなのだから。

外では他の聖闘士たちも問題の場所へ向かっていた。