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烙妖樹 その6


★★★
「思ったよりも荷物は無かったみたいだな」
荷物持ちを覚悟していたわりに、女官たちが直接持ち帰ろうとする購入品は少ない。 星矢は大丈夫なのかと女官に尋ねてみた。
「希少種の薬草は、そもそも町でも在庫が少ないのです」
むしろその種類は年々減少しているのではないかと思えるという説明だった。
「昔は傷薬で効果の高い薬草があったのですが、最近は全然見かけません」
詳しく話を聞くと、結構深い傷でも治癒させることが出来るというのだ。
「聖闘士の方の中には小宇宙で回復させることの出来る方がいらっしゃいますが、それは意識があってこそです。ですから薬の在庫を切らすわけにはいきません」
それは星矢と邪武には耳の痛い言葉だった。

野外マーケットでの昼食を終えて再び町へ戻り、購入予定のものを再度確認した後バスに乗って聖域へ戻る。 これで今回の行程は終了である。もちろんバスは聖域直行というわけではなく、とある村の停留所で降りてから聖域へはしばらく歩くことになるのだが……。
このようなのんびりした行動は、エスメラルダはもちろん星矢たち聖闘士も初めてだった。 ジュネは町を歩く女官たちの様子を見ながら、野外マーケットにいた奇妙な老人のことを思い出していた。
(あの老人は何か嫌だ……)
だが、どこがどう嫌なのかはジュネにも説明しづらい。 一行が目的の停留所に到着する。しばらくしてバスがやってくる。 ふと彼女は何者かの視線を感じた。 星矢と邪武も何かに気がついたのか、同じ方向を見る。 しかし、そこには誰もいなかった。

白い雲が漂う青空の下、長閑な田園風景やら海辺の見える道をバスは進む。 エスメラルダは外の風景を飽きもせずに見ていた。その隣で若い女官が小声でガイドをしてくれている。 車中は穏やかだった。
そのままバスは周囲に人家もない辺鄙な場所に止まる。近くには神殿跡ではなかろうかという小さな遺跡があった。 たまに観光客も降りるのだが、バスの本数が少ないので自然と観光客の数は限定される。 今回降りたのは星矢たちだけ。付けている者も後続車も無い。
しかし彼らは、何者かに見られているような気がして落ち着かなかった。