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しかし、実際にアイアコスが待っていたのは聖域付近ではなくデスクィーン島だった。先のギガントマキアの後、この島は少しずつ緑を取り戻している。だが、火山島ゆえ未だに危険地帯に変わりない。 「何かあったのか?」 カノンが詳しいことを言わないので、サガとしてはそう尋ねるしかなかった。 アイアコスは眉をひそめてカノンの方を見る。 「俺は資料はないかと聞いたのだが……?」 「そういうものはサガが暗記している。こいつに聞いた方が良い」 この言い分にサガは文句を言いそうになったが、三巨頭の一人と海将軍の一人は黄金聖闘士の不機嫌さを無視したのだった。 |
「事の起こりは、冥界に奇妙な亡者がやって来たことから始まる」 黄金聖闘士相手に喧嘩することも極秘にしておくことも今は無意味と判断したのか、ガルーダの冥闘士は素直にデスクィーン島に来た理由を話し始めた。 「その亡者はどうしても地獄門をくぐることが出来ずにいた……」 不審に思い言葉を交わしてみると、亡者には生前の記憶がほとんどなく思い出させようとすると情報が虫食い状態だった。 青い世界。生業は香辛料などを売る商人。奇妙な木。驚異的な速度で傷を治す葉。何かの鱗。 あとは延々と野外マーケットでの出来事と何十年も前に隣の村に住んでいたという綺麗な娘の話を喋っていた。 だが、自分が冥界へ来た時の記憶が抜け落ちているのである。 地獄門をくぐることも出来ず、冥闘士に取り憑く事も出来ない。彼はどうしたらいいのか途方に暮れていた。 「──何しろ亡者の肉体は現世で生きていたのだからな」 「なんだそれは」 「とにかく、このような事態は冥界への明らかな敵対行為だ。しかも、その呪術の媒体に使われたのは蛇かそれに準ずるもの。これは俺への挑戦と見ていい」 アイアコスは語気を荒らげた。 地獄門で亡者を見たとき彼はすぐにそれを察したし、ガルーダの冥衣もまた彼にそう示したのだ。 何者かが生と死の理を侵害しようとしている。 とにかく乗っ取られた肉体は罪を重ねるが、人であった部分は善良だったのだろう。基本的に、アイアコスの質問に亡者はとまどいながらも答えてくれた。 「そういうことで、まずは亡者の言った青い世界という言葉を探りに海へ行ったのだが、目ぼしい情報は無かった」 サガはカノンの方を見る。ずいぶん協力的だなと彼は思ったのだが、カノンによる状況説明はずいぶんと違っていた。 「──こいつがいきなり来たから、海底神殿がパニックになった」 海闘士の筆頭将軍はアイアコスを睨み付ける。しかし、当の本人は平然としていた。 |
今回は運悪くアイアコスの来訪を、海闘士たちが冥闘士軍の侵攻かと勘違いをしたのだ。 結局、海闘士側に何名かの怪我人を出した後、カノンが出て騒ぎは終息する。 「なんですんなりと海底神殿へ来れたのかもわからない。あそこは多少なりとも外部からの侵入は難しくしているはずだ」 自分たちの防衛機能が働かなくなったのか。それが騒ぎの原因でもあった。 好意的な存在なら海闘士か海将軍が相手を迎えに行く場所に、冥闘士が一直線にやって来たのだ。 敵対者ではないと納得させる方が大変なのである。 「そうか? 簡単に行けたぞ」 「だから、それがおかしい。もしかしてお前は水に関わる者なのか? 水がらみの名を持ったことは無いか?」 カノンの問いにアイアコスは苦笑いするだけで、何も言わなかった。 「……それで私がここに呼ばれた理由は何だ?」 何となく状況を察したサガが確認のため二人に問う。 アイアコスは素早く答えた。 「聖域の方で呪術に関わる情報を持っていないか」 サガは、やっぱりと心の中で呟く。 「呪術か……」 大きな情報は確かに自分の所に来るだろうが、小さな情報は白銀聖闘士の所で止まることが多い。 「私の所にそのような情報は来てはいないが、オルフェなら何か知っているかもしれない」 懐かしい名前にアイアコスは眉をひそめた。 「……オルフェが?」 「あれは今ユリティースがいるから、呪術関係には特に気をつかっている」 大小に関わらず情報を集めているだろうと推測がつく。 「ところで何故ここに来たんだ」 カノンが一緒ならアイアコスは直接聖域に来ても良いはずである。 ところがガルーダの冥闘士の返事は単純だった。 「聖域はこの島に巨人を隠していたのだから、今度は魔獣を棲みつかせていないか確認したかっただけだ」 それを聞いてサガは胃に痛みを感じたのだった。 |