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烙妖樹 その2


★★★
この日、星矢は聖域の訓練所でアイオリアとスパーリングをしていた。
ペガサスの聖闘士といえば、聖戦のおり最後まで女神アテナを守り神聖衣まで得ている。 これは聖域中が知っていた。 だが、この場にいた他の聖闘士たちから見ると彼は黄金聖闘士に遊ばれているような印象を受ける。
「お前は瞬発力はあるが、持続力が弱いな」
アイオリアは平然としているが、後輩の方はというと汗をかいて呼吸を整えていた。 どういうわけだか一定時間を超えると、星矢は途端に動きが鈍くなってしまう。 それは基礎体力云々というよりも、訓練だと集中力が続かず油断が動きに現れるためだと魔鈴に断言されていたので、星矢は自主トレをしていたのである。
しかし、見ている他の聖闘士から言えば二人とも体力レベルは桁違いであった。
ようやく二人の訓練が終わったとき、一人の女性聖闘士が訓練所にやってきた。 それに気がついた他の聖闘士や雑兵たちが騒めきながら彼女を見る。
カメレオン座の青銅聖闘士ジュネ。
彼女は最近になって聖域で暮らすようになったので、他の人々は見慣れていない。 しかも、聖域は女性の聖闘士が非常に少ないので、仮面をしていてもジュネは目立つ存在だった。 彼女は星矢の姿を見つけると、右手を軽くあげた。 星矢も気がついたと言わんばかりに手を振る。

「ジュネ。話はついたのか」
彼女は星矢に駆け寄ると、隣にいるアイオリアに会釈をする。 アイオリアは何事かと思いつつ、釣られるように挨拶をした。
「……さっき決まった」
獅子座の黄金聖闘士は彼女がとても緊張していることに気がつく。
(もしかして俺の所為か?)
しかし星矢の方は気にしていない。
「よく許可が下りたなぁ」
「向こうも強情を張るわけにはいかないと納得したらしい」
他に訓練していた者たちもいたのだが、何の弾みか訓練所に訪れた一瞬の沈黙のあと会話はなされた。
「それで……その……、付き合ってくれないか?」
「俺でよければ良いよ」
ジュネは伏目がちに言うし星矢は即答するしで、聞き耳を立てていた者たちが一斉に驚いた。 そして彼女は「ありがとう」といって訓練所を出てしまう。
残された星矢は周囲の不穏な様子に、慌てて会話の問題点を修正した。
「ち、違う! 付き合うって言うのは女官たちの買い物にだ。今回は聖闘士を二人以上同行させないと、エスメラルダさんの外出をサガが許可しないんだよ。だからジュネと俺とで……」
しかし、その内容だと買い物ツアーの男手は星矢一人ということになる。
より一層、訓練所の空気が不穏さを増した。
★★★
そしてジュネはというと、早速エスメラルダに伝えようと彼女の家へ急いでいた。
(ペガサスが了承してくれた……)
脳裏に白銀聖闘士である魔鈴の言葉が蘇る。
『ジュネが青銅聖闘士同士で無駄話ができるのは瞬くらいだろ。聖域では仲間同士の横のつながりもあった方が良い。星矢なら会話は成立すると思うから、ヤツと喋ってみな』
その場にいたシャイナは苦笑いをしていたが、ジュネには魔鈴の申し出に頷く。
(ペガサスが私をどう思っているのか聞けるかもしれない)
しかし、それはジュネにとってかなり覚悟のいることでもあった。