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『夜分に女性の部屋へ行くのは、失礼だとは思う……』
女性……。 そう、いつの間にか俺にとって、春麗は家族とか妹とかではなく一人の女性だった。 大切でかけがえのない女性。 なのに散々泣かしている。 今更ながら、己の悪行に心が冷えた。 あの時は仕方ないと他の人には今でも堂々と言えるが、春麗に対してはもっと他にやりようがあった気がする。 当時は気付きもしなかったが、今は少しだけそう考える様になった。 |
戦場とは違う緊張に深呼吸する。
運命の別れ道だと思った。 そして春麗の部屋の入り口を叩いた。 「春麗。起きているか?」 「どうしたの?」 春麗が不思議そうに部屋から顔を出した。 彼女は既に寝間着に着替えており、髪も解いていた。 なんとなく雰囲気が違う事にドキドキする。 「皆さん、帰られたの?」 家の中がやたらと静かな事に、春麗は首を傾げる。 「何か用事が出来たそうだ。 それで、老師も聖域に行かれた」 意味合いはかなり違うが、嘘ではないと自分を納得させた。 「その……、ちょっと話があるんだけど……、いいか?」 努めて冷静を装う。 春麗はしばらく黙った後、ニッコリと笑って答えた。 「いいわよ。 こんな格好だけど……、それでもいい?」 もちろんだ。 |
部屋に通された時、部屋に甘い香りが漂っていた。
これの正体はアフロディーテが持ってきたバラの花だ。 「とてもいい香りよね」 春麗は花の香りを楽しむ。 「ところで、話って何?」 改めて尋ねられると、なんと言っていいのやら。 言葉に詰まって、沈黙してしまう。 「?」 彼女は首を傾げる。 「あの……春麗。 誕生日、おめでとう……」 朝一番に言った台詞をもう一度繰り返す。 春麗は笑ってありがとうと答えた。 でも、彼女の笑顔が一瞬だけ曇ったように見えた。 何故だ? |
「ゴメン。贈り物を用意していなくって……」
小さい頃からお祝いはするが、実は誕生日に春麗に贈り物をした事がない。 何が欲しいと言われると、いつも春麗は要らないと答えるからだ。 だから、だいたい贈り物は春麗に似合う物が見つかった時とかに贈る事が多い。 「えっ?」 「……その……、今、暗い顔をしていたから」 すると春麗は慌てながら首を横に振った。 「ち、違うの! そんなに暗い顔をしていた?」 俺は頷く。自分に何か役立つ事があればいいのだが……。 「心配事があるのか?」 俺は春麗に断って、部屋の椅子に座った。 |
春麗も自分の寝台の上に座る。 「それより紫龍の話って、何?」 切り返されて俺は言葉に詰まってしまった。 また、あのような憂い顔をさせるのではないかと思ったからだ。 でも、尋ねなければ此処にいる意味がない。 しかし、口から出た言葉は……。 「春麗は大人になったら、何になりたい?」 背中に冷たい物が流れた。 もう子供と言うには少し微妙な年齢になっている女性を捕まえての台詞ではない!! が、もう遅い! 春麗の表情が、みるみる青ざめる。 |