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玲瓏 その7
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「本当に別人なら、それこそ慎重に動かなくては駄目だ。 それに向こうが教皇シオンでないのなら、ムウを抹殺するよう動くだろう」 「望むところです」 春麗をあやしながらムウは答えた。 ここまで慕われるとは、シオンは良い師をやっていたのだな。 しかし、サガは尚も説得をする。 「女神が降臨された今、女神を守る為にも動いてはいけない!」 「……」 「向こうを油断させて、女神に敵対する勢力の正体を探らせてくれ。 そして時間はかかるかもしれないが、あの方が成長するだけの時間をくれないか。 今、幼い女神を危険に晒すわけにはいかない」 女神のため。 サガにそこまで言われては、ワシもムウも引き下がるしかない。 ムウは春麗が伸ばした手に気付いて、その手を掴んだ。 「老師もその子を手放さない方が良いと思います。 既に敵は、その子を女神アテナと思い込んでいる節があります。 そしてきっと今の聖域は、その情報の訂正はしません」 これはあの時、強引に手放さなかった罰なのだろうか……。 片方は女神を守る為に、もう片方は不安材料を消す為に春麗を犠牲にしようとしている。 「そんな事はさせない!」 ムウの決意に初めてサガが笑った。 「では、牡羊座の黄金聖闘士ムウ。 女神の為にも、その少女の為にも短慮な事は起こさないでくれ。 聖域には、ムウの招集は無いように出来る限りの事はしておく。 ただ、それ以降は私も姿を消す。 ムウも後は何とか時間を稼いでくれ。 それから老師も女神と私の事は内密にお願いします」 |
サガはそう言って、ワシ等の前から去って行った。 「サガも無茶な事をせねば良いが……」 そう呟いた時、ワシは急にサガに感じた違和感が何なのか気がついた。 サガはアイオロスの反逆を簡単に口にした。 あれは割り切ったと言うよりも、何か台詞を喋っているかのような流暢さ。 気の所為だろうか? |
サガを見送りながら、ワシ等は黙ってしまった。 だが、しばらくしてムウが呟いた。 「老師。私は強くなってみせます」 皆を守れるくらいに……。 春麗を抱きしめながらの意思表示。 この若き黄金聖闘士の言葉にワシは素直に感心してしまう。 「お主のような弟子を育てて、シオンは凄い男だったんじゃな」 ムウはきょとんとした表情になる。 「こっちの話じゃ。 さて、これからムウには春麗の世話を覚えてもらうぞ」 「えっ?」 「まずは転がっている不届き者を、何処かの警察署の牢屋にでも放り込んでおいてくれ。 叩けば埃の出る連中じゃろう」 ワシはそう言って春麗を受けとると、家に戻った。 |
激動の時代が来る。 ワシが聖戦を共に闘った闘士たちは、もう居ない。 今度は新しき時代の闘士たちと共に闘うのだ。 その中の一人くらいは、ワシの手で育ててみたい。 そんな思いが過る。 「春麗の気に入る少年だと良いのだが……」 すると春麗が笑ってくれた。 その愛らしい笑みを見て、暖かな光の存在をワシは感じた。 |