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玲瓏 その7
「本当に別人なら、それこそ慎重に動かなくては駄目だ。
それに向こうが教皇シオンでないのなら、ムウを抹殺するよう動くだろう」
「望むところです」
春麗をあやしながらムウは答えた。
ここまで慕われるとは、シオンは良い師をやっていたのだな。
しかし、サガは尚も説得をする。
「女神が降臨された今、女神を守る為にも動いてはいけない!」
「……」
「向こうを油断させて、女神に敵対する勢力の正体を探らせてくれ。
そして時間はかかるかもしれないが、あの方が成長するだけの時間をくれないか。
今、幼い女神を危険に晒すわけにはいかない」
女神のため。
サガにそこまで言われては、ワシもムウも引き下がるしかない。
ムウは春麗が伸ばした手に気付いて、その手を掴んだ。
「老師もその子を手放さない方が良いと思います。
既に敵は、その子を女神アテナと思い込んでいる節があります。
そしてきっと今の聖域は、その情報の訂正はしません」
これはあの時、強引に手放さなかった罰なのだろうか……。
片方は女神を守る為に、もう片方は不安材料を消す為に春麗を犠牲にしようとしている。
「そんな事はさせない!」
ムウの決意に初めてサガが笑った。
「では、牡羊座の黄金聖闘士ムウ。
女神の為にも、その少女の為にも短慮な事は起こさないでくれ。
聖域には、ムウの招集は無いように出来る限りの事はしておく。
ただ、それ以降は私も姿を消す。
ムウも後は何とか時間を稼いでくれ。
それから老師も女神と私の事は内密にお願いします」
★★★
サガはそう言って、ワシ等の前から去って行った。
「サガも無茶な事をせねば良いが……」
そう呟いた時、ワシは急にサガに感じた違和感が何なのか気がついた。
サガはアイオロスの反逆を簡単に口にした。
あれは割り切ったと言うよりも、何か台詞を喋っているかのような流暢さ。
気の所為だろうか?
★★★
サガを見送りながら、ワシ等は黙ってしまった。
だが、しばらくしてムウが呟いた。
「老師。私は強くなってみせます」
皆を守れるくらいに……。
春麗を抱きしめながらの意思表示。
この若き黄金聖闘士の言葉にワシは素直に感心してしまう。
「お主のような弟子を育てて、シオンは凄い男だったんじゃな」
ムウはきょとんとした表情になる。
「こっちの話じゃ。
さて、これからムウには春麗の世話を覚えてもらうぞ」
「えっ?」
「まずは転がっている不届き者を、何処かの警察署の牢屋にでも放り込んでおいてくれ。
叩けば埃の出る連中じゃろう」
ワシはそう言って春麗を受けとると、家に戻った。
★★★
激動の時代が来る。
ワシが聖戦を共に闘った闘士たちは、もう居ない。
今度は新しき時代の闘士たちと共に闘うのだ。
その中の一人くらいは、ワシの手で育ててみたい。
そんな思いが過る。
「春麗の気に入る少年だと良いのだが……」
すると春麗が笑ってくれた。

その愛らしい笑みを見て、暖かな光の存在をワシは感じた。

あとがき

随分と、お待たせしてしまいました。
最初はムウが春麗ちゃんを構う場面の
リクエストだったのに、
老師主体になってしまいました。

本当にスミマセンm(_ _;;m