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「老師。今度、男の子が来るんですか?」
その笑顔は来てくれるものだと思い込んでいるようにも見える。 「春麗はその子に来て欲しいかな?」 すると春麗は可愛らしい笑顔を向けた。 「きっと龍さんも楽しみにしていると思うの」 龍さんとはこの場合は龍星座の聖衣の事だが、パンドラボックスから一度も出した事がないので、春麗には箱の中には龍が眠っているとだけ告げている。 「そうか……楽しみにしているか……」 天に口なし人を以って言わしむ。 彼は春麗の言葉は天意なのだと理解し、紫龍を受け入れることに決めたのだった。 |
「ちなみにジャミールに戻ったムウに弟子を取る事を一応告げたんじゃが、
『とんでもない少年だったら、すぐに消します』 と言って自分の黄金聖衣の手入れし始めるから、 これは絶対にやりかねないと思い、気をつけて育てねばと思ったものじゃ」
再び老師は笑ったが、アイオロスは乾いた笑いになってしまった。 「今思えば、あの時決断して本当に良かったと思っておるよ。 紫龍はやや真面目すぎるところがあるが、良い気質を持っており誰からも好かれておる。 あれ程の少年との巡り合わせは、多分もう無いじゃろう。」 老師がそう呟いた時、何処からか楽しそうに会話をしている男女の声が聞こえてきた。 「帰ってきたようじゃな」 「そうですね。 老師、私は手ぶらできてしまったので、ちょっと聖域に戻ります」 「何じゃ、気を使わなくて良いと言っておるのに……」 「いいえ。やはり出会いの奇跡をくださった天女に、贈り物をさせて下さい」 アイオロスはそう言って、聖域へと戻って行った。 |
老師よりアイオロスがきてくれることを知った二人は、喜んで料理を作りはじめる。
そしてしばらくして、アイオロスはプレゼントの荷物と幾人かの黄金聖闘士たちを連れてきた。 「誕生日、おめでとう」 そう言って魚座のアフロディーテが、美しいバラの花束を春麗に渡した。 「あ、ありがとうございます」 バラの良い香りに春麗は、何故か気持ちがドキドキしてくる。 他に来たのは牡牛座のアルデバラン、山羊座のシュラ。 全員、聖衣を纏っておらず普段着だった。 「春麗、台所を貸してくれ」 何度か五老峰に来た事のあるシュラが、食材を持って家に入って行く。 「老師、聖域代表で我々もお嬢さんの誕生日のお祝いをさせていただきます」 アルデバランは洋菓子の入った箱を、春麗に渡した。 その年は、お客を4人迎えての誕生日会になり、春麗は心から楽しんだ。 そしてその宴は夜まで続いたのである。 |
夜になって、いつの間にか酒を酌み交わしている黄金聖闘士たち。
春麗は先程自室に戻ったが、紫龍はお茶を飲んで付き合っていた。 ところがいつもは酒で酔うような老師ではないのだが、いつの間にか眠っている。 「老師、ここでお休みになられては……」 紫龍が起こそうとするのをシュラが止めた。 「老師は眠られたか」 黄金聖闘士たちの表情が笑っていたり不機嫌だったり。 「やはりアフロディーテの調合は効くなぁ」 アイオロスは関心している。 「俺はこれからお前とは一緒に酒は飲まん」 シュラはそう言いながら席を立つ。 「バレたら今後何年か、五老峰への出入りは禁止だろうなぁ」 アルデバランが老師を背負う。 「これはいったい……」 紫龍はアイオロスの方を向いた。 「心配しなくて良いよ。 老師は、聖域の仕事をこっちに押しつけて旅行三昧だから、業務が滞っているんだ。 こんな善き日に申し訳なかったけど、どうしても老師を捕獲したかったから 今日お邪魔させてもらった。 お嬢さんには内緒にしておいてくれないか?」 教皇代理の願いを無下には出来ないので、紫龍は頷く。 「老師には聖域に泊まってもらうから、心配するな」 アフロディーテは笑いながら部屋から出て行った。 他のメンバーもそれに続く。 「では、健闘を祈る」 最後にアイオロスが、部屋を出る。 「健闘って……」 紫龍はそう呟いた後、自分の顔が火の様に熱くなったのを感じた。 |
その後、サガはアイオロスが見事に紫龍と春麗を味方につけた事を知って 「やはり、あいつは怖い」 と呟きながら、今度は教皇シオンにみせなくてはならない書類の束を揃えていた。 |