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玲瓏 その2
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嵐は突如として吹き荒れる。 その日も、その直前までは何も変わらない一日だった。 「童虎!」 赤ん坊を連れて青ざめている友の様子に、思わず本音が出る。 「お主の子か!」 「滝壺に落ちてしまえ。愚か者!」 シオンは間髪入れずに必殺技を放つ。 本気でワシを、大瀧の瀑布が作り上げた水底に叩き落とすつもりらしい。 しかも片腕で赤ん坊を抱いているのに、技の威力が衰えていない。 拙い。迂闊な事を言えば、シオンはこっちを半殺しにしかねない。 この険悪な空気に、赤ん坊が泣きだした。 とても可愛い声。 シオンが困惑した表情であやす姿を見て、ワシは昔の事を思い出してしまった。 |
現在の聖域の教皇となった牡羊座の黄金聖闘士は、若い時、どういうわけだか道を歩くと捨て子や迷子を見つけてしまうという事が多かった。
昔の仲間たちは 『お前の子か?』 と、からかったりもした。 だが、毎回子供たちの方が断然可愛いので、シオンの血筋ではないと即刻訂正される。 最近はそのような騒ぎを聞いてはいなかったが、この男の宿命は健在という事だろうか。 |
「すまん、すまん。冗談だ」 「人が苛立っている時に、質の悪い冗談は止めろ」 そう言ってシオンはワシに赤ん坊を渡す。 花の香り? 気の所為か? 「何処で見つけたんじゃ?」 嫌な予感はしたが、 あやしながら尋ねる。 「此処に来る途中で、瞬間移動の到着地点を間違えた。 そうしたら、この赤ん坊が居た」 周囲に人の気配が無く置いて行くわけにはいかなかったとの言葉に、ワシは頷いた。 こんな肌寒い季節に乳飲み子を人気の無い場所に置いて行くと言うのは、決して許される事ではない。 「……」 「もしも連れ去られた子供なら、親は今頃探しているかもしれない。 お前も協力してくれ」 有無を言わせない言葉。 赤ん坊を受け取った今、ワシは断るとは言えなかったし、シオンに突っ返す気もなかった。 多分、この可愛らしい赤ん坊を手放したく無くなっていたのかも知れない。 |
『さっさと実の親か養い親を見つけろ。 我々は聖闘士だ。 この子を巻き込むなよ』 と、言いたい事を言ってシオンは聖域に戻った。 いつも思うが、慌ただしい奴だ。 だが、ワシはとあることに気がついた。 「幼子を受け入れる為の物が何も無い……」 嵐のような出来事の後、この事実に呆然とした。 |