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小鳥のお茶会
その2 |
エスメラルダはあまり手入れのされていない芝生の上にちょこんと座る。
デスクィーン島の荒れた大地しか見た事の無い彼女は、何度も芝の感触を確かめていた。 「……」 楽しげな彼女。 一輝は、その表情を眩しそうに見る。 だが、今を夢の様だと思う反面、何者かがエスメラルダをデスクィーン島の遺跡に閉じ込めていたという事実に怒りを覚える。 そしてエリスが彼女をここに連れてきた事が不気味に思えてならない。 (エスメラルダの身に何が起こっているんだ?) 考えてみれば自分が彼女について知っている事は、ほんの僅かな事。 そもそも奴隷として売られたエスメラルダに、家族の事など尋ねる気が無かったからなのだが……。 |
しばらく二人はその場に居たのだが、他に人の気配が無いのに同じ場所から離れないというのは無駄かもしれないと彼は考え始める。
一輝は少し周囲の様子を見て回ろうかと思った。 だが、今度はエスメラルダが座った場所から少しも動かない。 この事に、一輝は自分の迂闊な発言を悔やんだ。 彼女は奴隷だった経験上、命令や意見に対して過剰なまでに従ってしまう。 反抗すれば苦痛を与えられると、身体が覚えてしまっているのかもしれない。 「エスメラルダ。 その……少し歩かないか?」 「えっ?」 「この小屋が見える範囲なら大丈夫だ」 手を差し伸べると、彼女は不安げな表情をした。 「一輝が怒られない?」 「だから遠くには行かない。 それに同じ場所に居続ければ、死角が出来る」 自分で森へは行くなと言った事を思い出し、一輝は自嘲気味に笑ってしまう。 しかし、エスメラルダは一輝が誘ってくれた事が嬉しかった。 もしかすると彼が一人で森へ行った後、ここで留守番になるかもと考えていたからである。 一輝が手を差し伸べると、エスメラルダは嬉しそうにその手を取った。 |
異国の森に美しい小鳥の声。
荒野しか知らない少女は耳を澄まして小鳥の声を聞く。 「綺麗な声ね」 「……」 「あの島では滅多に鳥の声は聞こえなかったね」 デスクィーン島での話に、一輝は立ち止まる。 尋ねるべきか、このまま別な話にするか、躊躇した。 「あっ、ごめんなさい……」 相手にとって嫌な話をしてしまったのだと彼女は考え、すまなそうな顔をする。 一瞬の沈黙。 しかし、二人にとっての共通点は、忌まわしい島での暮らししかない。 一輝は覚悟を決めてエスメラルダに家族の事を尋ねてみた。 すると彼女は、自分の家族について一輝が知らなかった事の方に驚く。 「話してなかった?」 「多分……」 彼女の言葉を聞き逃したとは思えないが、あの時期は弟の事と聖闘士になるという事で精一杯だったのも事実。 何処かでおざなりに聞いていたのだろうかと思わない事も無い。 だが、エスメラルダは何か考え込み、困惑していた。 「どうしたんだ?」 一輝の問いに、彼女はおずおずと困惑の原因を話し始める。 「……あのね、 今になって思い出したのだけど、私、お兄さんと呼ぶ人が居た様な気がするの」 だが、彼女はしきりに首をひねっていた。 「それは実の兄という事か?」 「よく判らない……」 朧げな記憶なので、その人の顔も思い出せないという事だった。 「もしかすると隣の家のお兄さんなのかもしれない」 今となっては生まれた所に戻っても、両親や近所の人が居る確率は低い。 結局、その人の正体は判らないかもとエスメラルダは寂しそうに言った。 |