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小鳥のお茶会
その1 |
ハインシュタインの森。
そこは五老峰の風景とは別な輝きに満ちていた。 一輝とエスメラルダが小屋の見張り番をする事になり、瞬と貴鬼はミューに引きずられるようにして城へと連れて行かれる。 瞬は小屋の前にアンドロメダの神聖衣を置いて行ったので、エスメラルダは興味深げにそれを見つめていた。 そして、その隣にはフェニックスの神聖衣。 二人の聖闘士は、留守番役の冥闘士の言い分を聞き届けたのである。 彼女は一輝の神聖衣の前に立つ。 「綺麗ね」 エスメラルダは嬉しそうに微笑んだ。 |
一輝は目の前にいる少女の姿が、幻では無い事を願う。
美しい森の中で微笑む彼女が、何処か現実的ではないような気がするのだ。 「エスメラルダ……」 名前を呼ばれて振り返る彼女。 一瞬、彼女の背に白い翼が見えたような気がした。 (目の錯覚か?) だが、その美しい一瞬が逆に彼の心を不安にさせる。 何時か醒める夢に自分は捕らわれている様に思えてしまうからだ。 |
そんな彼の様子に気付かないエスメラルダは、木の上では自分達の事を見ている小さな動物を見付けた。
「一輝、あれは何?」 「……リスだろうな」 動物について詳しい事を知っている訳ではないので、急に尋ねられて一輝としても非常に答えにくい。 今のも幼い頃、瞬に絵本を読んであげた時の記憶を無理矢理呼び出しての返事なのだ。 しかし、彼女はその返事に満足したらしく、じっとリスの動きを見ていた。 そしてリスの後を追って、エスメラルダは森の中に入ろうとするのである。 |
「エスメラルダ。待て!」
一輝は慌てて彼女を呼び止める。 「えっ??」 呼び止められた方はビックリして一輝の顔をじっと見ている。 「森の奥には入るな。 どんな獣がいるか判らないのだから、無闇に入らない方が良い」 別に一輝としてはその獣が怖い訳ではない。 ただ、この美しい森が彼女を隠してしまうのではないか。 そんな気がしてしまったのである。 彼女の方も、そう言われると森が逆に正体不明の生き物を内包している様な気がしてしまう。 「……はい」 エスメラルダも自分が此処に居る事になったのは、小屋に見知らぬ人を近づけさせない為という事を思い出して一輝の傍へ駆け寄った。 あまりにも平和すぎるくらい静かな時間。 五老峰での騒ぎや聖域という場所で一輝と再会出来た事が、彼女には遠い昔の様に思えた。 |