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光る花
その3 |
『……』 「もう、戻るの?」 彼女の言葉にワイバーンは頷く。 「……会いに来てくれて、本当にありがとう……」 その目から零れる涙を、ワイバーンは綺麗だと思った。 多分、もう会えないかもしれない。 でも、自分がやった事は間違いではなかったと、彼は考える。 闇色の冥衣はその翼を大きく広げると、主の元へ飛び立った。 そして彼の姿は闇に溶け込む。 ユリティースは彼らの消え去った後を、しばらく見つめていた。 |
シャイナは無事、見届けが終わった事に胸をなでおろす。 「何事もなくて良かったな」 背後で不意に言われて、彼女は飛び上がらんばかりに驚いた。 「ミロ!!」 「冥衣にも健気な奴がいるんだなぁ〜」 見当違いの感想を呟かれて、シャイナは怒り心頭に達する。 「何で此処にいるんだ!」 「えっ〜。シャイナを夜の散歩に誘おうと思ったら、ユリティースと出て行くのを見かけたから付いてきたんだ。 女二人で夜遊びかと思ったからさ〜」 「誰が夜遊びなんかするか。 貴様といっしょにするな!」 見当違いな所でサンダークロウが炸裂したので、ユリティースは何が起こったのかと首を傾げた。 |
数時間後の場所は変わって日本での出来事。
城戸邸に、非常に珍しい人物がやって来た。 「パンドラ……、どうしたの……」 沙織は三巨頭の一人であるミーノスを連れた彼女を見て、少々驚く。 非常に怒っているのである。 「アテナ。聞いてくれ! ラダマンティスに女がいる!!!」 「はぁ???」 パンドラは口にするのも汚らわしいとばかりに、それ以上は何も言わない。 言葉を続けたのはミーノスだった。 「ワイバーンの冥衣に女性の匂いが付いているといって、パンドラ様がラダマンティスを引っぱたいてしまったのです。 ただの痴話喧嘩ですが飛び出されるのもやっかいですから、しばらく預かっていただけませんでしょうか?」 既に保護者のような言い分に、沙織は笑いを堪えるのに必死だった。 そして、オルフェが聖域に向かって帰っている事に、胸をなでおろす。 この二人が顔を合わせるには、まだ時期尚早な気がしたからだ。 「好きなだけ居ていいわよ。 なんだったら、ニケと一緒になって味方もするわ!」 いきなり戦の女神の本領発揮のような言葉を聞いて、パンドラは頼むと言い、ミーノスは小さく笑う。 天猛星の男は、この時点でかなりのピンチに立たされた。 |
『……』 冥界に戻ったワイバーンは、花畑に居た。 ここにはもう彼女は居ない。 でも、この優しい場所には、相変わらず綺麗な花々が咲いており、優しい光が降り注いでいた。 『……』 これから日本へ行って、主と一緒にパンドラ様を迎えに行く事になっている。 自分を呼ぶ主人の声に、彼は翼を広げた。 もう此処に来る事はないかもしれないと思った。 でも、ここもまた冥界なのだから、守るべき場所である。 彼は一度だけ花畑の上を旋回すると、自分の主の元へと羽ばたいていった。 |