INDEX
目次

A surprising present その3
この日のハインシュタンの空は晴れ渡っており、森は美しかった。
撮影場所の近くでは騒ぎを聞きつけた村の婦人達が、いきなり来た彼らの為に野外料理を作ってくれている。
彼女達は青年達が冥闘士である事は知らないが、ハインシュタインのお姫様の家臣である事は知っていたので協力してくれているのだ。
沙織は草の上に敷かれたシートの上で、婦人が差し出したお茶を飲みクッキーを摘む。

「スタッフに関する概算はこれくらいです」
ミーノスが請求書とその明細を沙織の前に差し出す。
この内訳は会計士の資格を持つ冥闘士が出したという。
本当に色々な職種が揃っているのだと、沙織は感心してしまった。
「……了解」
それに彼女自身、納得出来る数字だった。
そして彼女は小切手に金額を書く。
「少々、多いですね」
「美味しいお茶を淹れてくれて、非常に協力的だったご婦人達を労ってやって頂戴。
私自身、寛がせて貰ったから」
「判りました」
変な話ではあるが、冥界の裁判官達は不正を最も嫌うので、ビジネスにおいては絶大な信頼を寄せる事が出来た。
★★★
「それでは、行ってきます」
恐ろしい量のフィルムが消費され、カメラマン役をした冥闘士は少々嬉しそうな表情で村へと向かった。
これから直接、日本へ行ってグラード財団が契約している広告会社へ赴くのだ。
「何だ、直ぐに見れないのか」
アイアコスは少々不満げである。
「それは仕方がありません。 ここには器材が揃ってはいないのですから」
ミーノスは楽しげに笑う。
実はアイアコスは、部下にねだって休憩時にカメラに触らせて貰ったのである。
多分、何かを撮影したのだろう。
「後で見せて下さい」
「おう。カッコいい写真だぞ!」
ガルーダの冥闘士も楽しそうに笑った。
★★★
「パンドラもお疲れさま〜♪」
当のモデルはもう4回くらい着替えており、今はフリルのたくさんある黒い子供服を着ている。
「なかなか楽しかったぞ」
「それじゃ、私は一旦聖域に戻るわ。
洋服は後で取りに来るから、今は預かっていて」
パンドラは沙織の言葉に頷く。
「何かあったら、連絡を頼むぞ」
「判ったわ。
それにしてもハープに何か細工されていたのかしら?」
沙織の呟きに、パンドラと冥闘士たちは硬直する。
「ハープ!」
何故か誰も考えもつかなかった可能性にパンドラは驚く。
しかし、部下の三巨頭は酷い台詞を口にした。
「ファラオが何かやったのか!」
「彼に発見出来ますか!」
「アテナからオルフェを借りよう!」

本人が聞いたら傷心の旅に出そうだと、その場にいた他の冥闘士たちは全員考えてしまった。