INDEX

そのままの君でいて〜春麗18歳〜 その13

「……さっきね。夢を見たの」
「……」
「それってね、小さい頃よく見た夢なの」
彼女は小さく笑う。
「凄く悲しい夢で、昔、老師やムウ様は私がその夢を見ると、こうやって手を握って下さって、
『大丈夫、誰も手を離したりはしない』
って言って下さって、それだけで凄く安心できたの」
紫龍は何も言わずに彼女の話を聞く。
「紫龍の手、老師やムウ様みたいに優しい」
そう言われても何か褒められているような気がしないのは、ヤキモチの為だろう。
そんな紫龍の葛藤を知ってか知らずか、春麗は楽しそうに微笑んだ。
だが次の瞬間、彼女は苦痛により表情を歪めた。
その痛みは先程の比ではない。
彼女は紫龍にもたれかかった。
「どうした春麗」
紫龍は彼女の肩を掴んだが、触られただけで、さらに彼女は悲鳴を上げる。
「老師!」
彼は驚いて師匠を呼んだ。

★★★
彼女はあまりの痛みに、紫龍にしがみつく。
そして他の人間が触ると春麗は、あまりの痛みに悲鳴を上げるので、最後はそのままにされた。
「紫龍……、手を握って……」
自分に寄り掛かって、苦しそうな表情をする彼女の頼みを彼は聞かないわけにはいかない。
「こうか?」
彼女の手をそっと握る。
すると彼女は手すら痛い筈なのに、嬉しそうに笑って目を閉じた。
「春麗は誰かに手を握ってもらうと、安心するんじゃよ」
娘に触れない童虎は、何かを思いついたらしく部屋から出ていく。
その言葉の意味がわからず、紫龍はムウの方を見た。
「……春麗は小さい頃、自分が捨て子だった事を知って、夜中に泣く時期があったんですよ」
「……」
「真夜中に起きて朝まで泣くので、いつも私や老師が 『大丈夫、誰も手を離したりはしない』と言って、彼女を宥めて寝かしつけたのです。
でも、やはり自分が捨てられた状況などを夢の中で想像して見てしまうらしく、 しばらく真夜中は寝ずの番をしましたよ」
紫龍はこの時、老師やムウがどれほど大切に春麗を守り育てていたのかを改めて知った。
彼女の辛い時期を、彼らは愛情を持って対応してくれたのである。
(俺はまだまだだな……)
それでもさっきはヤキモチを焼いてしまったが、今は彼女が自分の手を老師やムウと同じだと言ってくれたことが、誇らしいことのように思えた。
そこへ童虎が水を用意してくれた。
彼女が水を欲しがる事があるかもしれないと思ったからである。。