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そのままの君でいて〜春麗18歳〜 その12

誰かの暖かな手。 その手が自分から離れる。
(行かないで!)
声の限り叫んでも、その手は再び自分に触れてはくれない。
(どうして?どうして?どうして?
私が悪い子だから?
私が要らない子だから?)
寂しくて悲しくて、泣き叫ぶ。
その時、別の暖かな手が自分に触れた。
春麗はその手を掴む。
『大丈夫ダヨ』
その優しい声に、彼女は目を覚ましたのだった。

★★★
暗い部屋の中で、仄かに見える少年の顔。
「紫龍……?」
自分の置かれている状況が判らないので、春麗は自分の事を見ている少年が本物なのか首を傾げてしまう。
「そうだ。ただいま、春麗」
紫龍は彼女の手を握りながら、頷く。
「今、明かりをつけるよ」
彼はそう言って、部屋の明かりをつける。
その間春麗は、握られていた手を見つめた。
「気分はもう大丈夫なのか?」
不安げに尋ねられて、彼女は首を縦に振る。
「こっちは今日ジャミールに戻ったんだ。 そうしたら春麗が倒れたって聞いたから、ムウに連れてきてもらったんだよ」
彼女が気にかけそうな事を、紫龍は先手を打って説明する。
「……ごめんなさい」
春麗は上体を起こそうとするが、紫龍はそれを止めさせる。
「何で謝るんだ?」
「だって、紫龍やムウ様に迷惑をかけちゃって……」
彼女はそう言って紫龍に背を向けて、布団をかぶってしまう。
「春麗、それは……」
「もうちょっと待ってて……。 なるべく早く大人になるから。
紫龍に迷惑をかけないようにするから……」
意外な言葉に紫龍は言葉を失う。
そして彼女は涙声で言う。
「だから……」
彼女の身体が小刻みに震えているのを見て、紫龍は意を決する。
この間のように何もしなければ、何も伝わらないのである。
紫龍は春麗を振り向かせると、そのまま強引に上体を起こさせた。
急な事に彼女の方はバランスを崩して、紫龍の胸に身体を預けるような格好になってしまう。
「君はそのままで良いんだ。春麗」
「……」
[俺の方こそ、早く大人になって春麗を不安がらせないようにする。
だから、いなくならないでくれ……」
そう言って彼は俯いてしまう。
今の表情を見られたくない。
春麗の方は彼が泣いているのかと思った。
「紫龍?」
「……俺は春麗から見たら全然頼りないかもしれない。
多分、いや俺はかなり春麗に甘えている。たくさん悲しませて、泣かせてもいる。
もう愛想を付かされているのかもしれないけど、それでも君にはここにいて欲しい」
一気に喋らないと余計な言葉で、また本音を言わずじまいになりそうだった。
だからといって、思考が先走った言葉でどれほど伝わるのかは謎である。
「……俺に君を……」
そう言って紫龍は春麗の方を見る。
そして言葉を失ってしまう。
大人の綺麗な彼女。
緊張と彼女を愛しいと思う衝動に思考がパニックを起こしてしまったのだ。
しかし、春麗は感極まって涙を零す。
「紫龍、ありがとう」
そして彼女は両手で彼の右手を包み込んだ。