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そのままの君でいて〜春麗18歳〜 その10

紫龍がジャミールへと無理矢理旅立たされた翌日、春麗は肩に鈍い痛みを感じた。
「?」
別に何処かをぶつけたわけではない。 彼女は様子を見ようとして、肩を動かしてみる。
すると肩の痛みは嘘の様に消えた。
「運動不足?」
時々麓の村までかなりの時間をかけて食材などの日常品を買いに行っているが、それでも運動量が不足していたのだろうか?
「私も老師に棒術を教えてもらおうかしら?」
彼女は良い考えだと思って、早速養父の部屋へ行った。

★★★
そしてムウが満身創痍の紫龍とジャミールへ戻ったのは、3日後の事。
「ムウ様、今回は何があったんですか?」
家にいた貴鬼が驚きながらも、二人にお茶を出す。
紫龍はもう何も言いたくないといった様子で、椅子に座った後テーブルに上体を伏してしまった。
(あれはいったい何だったんだ? そもそも俺は何処へ連れて行かれたんだ??)
この3日間の出来事は、紫龍にとって衝撃を通り越して思考が停止にまで追い込まれた。
しかし、ムウは平然としている。
「今回は紫龍がいて助かりましたよ。 あの魔獣を退治してくれたのですから」
牡羊座の黄金聖闘士の言葉に弟子は驚いたような表情をする。
「ムウ様、あの噂の魔獣が出たのですか?」
「私も初めて見て驚きましたよ」
しかし、その口調は何処かのんびりとしている。
(ムウは魔獣除けの道具を忘れたと言っているが、絶対に嘘だ!)
二人の会話を聞きながら、紫龍は妙に断言することが出来た。
★★★
「ところで貴鬼。五老峰の様子はどうですか?」
お茶を飲みながら、弟子に三日間の出来事を尋ねる。
「面白いです。ムウ様」
弟子の返事にムウは眉をひそめる。
「面白い?」
「老師がいきなり身体を鍛えると言って、アイオロスさんを相手に、棒術やら剣術を見せてくれるんです。
物凄くカッコいいんですよ!!
それに春麗も習っているから、オイラも時々相手をしているんです」
貴鬼は興奮しながらその時の事を説明するのだが、ムウと紫龍は話を聞いて複雑な表情になった。
「春麗に教えるとは……。
それに老師はあの子に近付く男を叩きのめすつもりですかねぇ?」
ムウがそう呟いた時、貴鬼が笑いながら答えた。
「それをやるのはシオン様みたいですよ」
弟子の言葉に、茶を飲んでいた二人は思いっきりむせ返ってしまう。
「何でそこで師匠が出てくるのですか!」
「えっ?
昨日、日本から直接シオン様がやって来て、老師の練習相手をしながら、そう言っていました。
何でもこんな楽しい事を老師一人しか体験できないのは狡いって……」
その返事にムウは溜息をつき、紫龍は疲労感で身体を動かすのも辛かった。