INDEX

そのままの君でいて〜春麗18歳〜 その9

再び貴鬼が五老峰にやって来ると、童虎は入れ代わりに聖域へ行ってしまう。
春麗は養父の突発的な行動を疑問に思う事無く、それを見送ると昼食の用意をし始めた。
貴鬼は喜んで、それを手伝う。
「背が少し伸びたけど、やっぱり届かないわ」
奥にある皿を取ろうとして、椅子を動かそうとする彼女を手伝おうと、貴鬼はテレキネシスを使う。
「貴鬼ちゃん。ありがとう」
いつものように春麗は感謝の言葉を口にする。
だが、彼の方は見知らぬ女性に感謝されているようで、顔が赤くなった。

★★★
しばらくして童虎は一人の黄金聖闘士を連れてきた。
教皇シオンが日本へ行っている為不在だったので、彼は教皇代理をやっている射手座のアイオロスを連れてきたのである。
春麗はこの客の来訪に驚く。
アイオロスの方も春麗の様子が変わっている事に驚いたが、特に表情には出さなかった。
「春麗、ワシは身体を鍛え直さねばならん。
しばらくの間、アイオロスがワシの修行の相手をしてくれる事になったから、承知してくれ」
彼はそう言ってアイオロスと大滝の方へ向かう。
「春麗。見に行って良い?」
貴鬼に尋ねられて、春麗は頷いた。
★★★

彼はアイオロスに棒術の修行に使用する長い棒を渡す。
「老師。いきなり身体を鍛えたいとおっしゃるから何事かと思いましたが、彼女の為なんですね」
アイオロスに尋ねられて、童虎は苦笑してしまう。
「自分の娘があんなにも成長するとなぁ。男親が出来る事は、たかが知れておる。
少なくとも無事に嫁ぐまでは守ってやりたいのじゃ。
あの子には辛い目にばかり遭わせてしまったからなぁ」
何も知らない人が聞けば愛情溢れる父親の言葉だが、童虎の実力を知っているアイオロスとしては、
(貴方に勝てる一般人はいません)
と、呟いてしまいそうになった。
童虎は聖闘士としての技の他に、武芸十八般に精通しており、各国の稀な武術・滅びてしまった武芸についても詳しい

その彼が武術の再訓練するべく黄金聖闘士を練習相手にしようとしたのだが、後輩たちは聖闘士の技には長けていたが、一般の武術に関してはかなり問題があった。

★★★
基本的に聖闘士は武器の使用は禁止されているので、逆に言うなら武器に関しては関心を持つ必要があまりない。
というか、黄金聖闘士ともなると敵が武器を使用する前に倒してしまうので、武器が何であるかを知ってはいても、それだけの話なのである。
実際、彼らの中ではアルデバランとシュラが少々武術を使えるくらいだった。
この事実に教皇代理であるアイオロスと双子座のサガは愕然としてしまう。
何故なら、必要に迫られた時に天秤座の武器を彼らが使いこなせるかどうかと言う事に関して、問題があると言わざるを得ないからである。
本当に使わなくてはならない時に武器の力を最大限にまで引き出すには、使用者もその武器に関して熟達していないとならない。
武器の性能に依存した使い方は、武器そのものを壊しかねないのだ。
結局、サガが他の黄金聖闘士たちを鍛え直すという事で、アイオロスが童虎の武術訓練に付き合う事になった。スパルタ教育のサガと笑顔で過酷な訓練を課すアイオロスのどっちが良いと尋ねられた時、黄金聖闘士たちは表情で様子の判るサガを選んだのである。