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そのままの君でいて〜春麗18歳〜 その7

ムウは春麗に二つの小さな丸薬を渡す。
彼女は直ぐに飲んだのだが、何となく情け無さそうな表情をした。
「苦〜〜い」
水を飲む為に、半分泣きながら慌てて台所へと駆けてゆく。
「急いで作りましたから、飲みにくかったみたいですね」
「大丈夫なのか?」
童虎は不安げに台所の方を見る。
するとムウは苦笑しながら答える。
「大丈夫ですと胸を張って言いたいのですが、春麗はまだ若すぎますので強力な効果を表す薬は作れません。
遅効性になるように改良したので、ここ数日は体調の様子を注意してやって下さい」
「判った」
とにかく効果が現れるまで油断は出来ないので、童虎はムウから問題の軟弱ヲトコ茸製の丸薬を預かった。
春麗がこの匂いに反応しなければ、薬は効いたという証明になるからである。

しかし翌朝になって、童虎と紫龍は事態がとんでもない方向へ向かった事を知った。

★★★
いつもなら爽やかに始まる朝が、この日は春麗の悲鳴で始まる。
慌てて二人が春麗の部屋へ駆けつけた時、二人は部屋の中を見て絶句。
半泣きの春麗が立っていたのだが……。
「老師。紫龍ぅ……」
いつもより長い髪。いつもより大人びた顔だち。
そして、いつもより艶かしい姿。
「その姿は……」
彼女の姿が少女から妙齢の女性へと変化していたのである。
(ムウ〜〜。なんて事を〜〜) ← 二人とも怒りMAX

本人は髪をまとめる時に自分の姿を見て、悲鳴を上げたらしい。
彼らもこの展開には、正直言って泣きたくなった。
★★★
「一応、解毒剤はちゃんと効いたみたいですね」
大慌ての童虎に無理矢理五老峰へと引きずられてきたムウも、春麗の姿に驚く。
それでも問題の丸薬の匂いを彼女に嗅がせて様子を見る事を忘れないのだから、冷静といえば冷静だった。
「春麗。綺麗だよ」
ムウにくっついてきた貴鬼の方は、すんなりとこの事態に馴染んでしまう。
「えっ、本当?嬉しいわ」
そして悲鳴をあげた本人も、今は落ち着きを取り戻してニコニコとしている。
「その服は紫龍のですか?」
男物の服を着ている彼女は、何処か色っぽい。
ムウの問いかけに春麗は顔を赤くした。
「あ……あの、胸がきつくなっていたんです……」
頬を赤く染めながら消え入りそうな声で返事をする彼女は、何処までも綺麗だった。
(春麗……)
自分の服を着ている大人の姿の彼女。
紫龍は目が離せない。
★★★
「とにかく、これ以上春麗に薬を飲ませる訳にはいきませんから、後は自然に戻るのを待つしかないでしょう。
効果が切れれば元に戻ります」
ムウの説明に童虎は溜息をついた。
「春麗も後何年かしたら、そんな姿になって嫁に行ってしまうんじゃなぁ」
彼は思いっきり見当違いな事を心配して、打ちひしがれている。
(嫁だって……)
紫龍はこの時、数年後の未来が今ここにいるのだという事に気がつく。
自分は聖闘士なのだから、新たな戦いが起これば当然戦場へ赴く。
その時彼女は、自分の無事を祈ってくれているだろうか?
(もしかすると甲斐性のある男性のもとへ嫁いでいる可能性の方が高いかも……)
彼は以前、ムウにきっぱりと甲斐性なしと言われている。
この場に第三者的な大人がいれば十代で甲斐性がある方が稀だと言ってくれたかもしれないが、今現在いない為、彼としては自分を安心させるものが無い。
急に自分の中で沸き上がった不安に、紫龍は表情が険しくなってしまった。