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そのままの君でいて〜春麗18歳〜 その5

「軟弱ヲトコ茸について調べようと、もう一度ヂパングへ言ったのですが、そこの古老の一人から面白い話を聞いたんです」
話を落ち着いて聞く為に、丸薬の入った袋は密閉容器に入れられる。
すると春麗は何か術が解けたかのように、いつもの彼女に戻った。
「軟弱ヲトコ茸は稀に生えるそうですが、これがヲトメ茸とは別の意味で女性に効果のある茸だそうです」
そして彼女は予備知識という事で、ムウから『男態山の由来』を借りて読んでいる。
「どんな効果なんじゃ」
童虎は既に、疲労困憊している。
「母性本能が全開になるのです。 ただ、やはり強引な薬効ですから、誰それ構わず世話を焼く様になるし、異常なまでの心配性になったりするそうです」
ところが、この軟弱ヲトコ茸は男性が口にすると、闘争本能が押さえられるという。
「春麗が丸薬の匂いだけで反応してしまうのは、意外でした」
ムウはそう言ったが、三人とも、薄々勘付いていた。
春麗の反応は、過去にヲトメ茸を口にしていた所為だという事を……。
でも、誰も言わない。
「怖い茸なんですね」
春麗は素直に感想を言う。
彼女の良い所は、何故ムウがそのような薬を作り、持ってきたのかを詮索しないところである。
紫龍は身の危険を感じて、ムウの事を睨み付けた。

★★★

しかし、原因がわかった所で何の手も打たなければ、彼女はこの先ずっと軟弱ヲトコ茸の匂いで、いきなり見知らぬ男性にも愛の告白をしかねない。
「私が気をつけるというのは、無理なのですか?」
困ったように尋ねる春麗に、ムウは苦笑しながら答える。
「永久かどうかは症例を詳しく聞いていないので軽々しく判断できませんが、薬というものは人間の意志を曲げてしまう怖さを持って います。
私は、春麗にいつでも自由な心を持っていて欲しい。
何とかならないか、もう一度ヂパングへ行って調べてきますよ」
そう言って彼は立ち上がる。
軟弱ヲトコ茸は春麗にとってタチの悪い惚れ薬なのである。
こんな反則技のような手段で、彼女
の運命が狂わされるのは絶対に避けたい。
この言葉に紫龍は感動してしまった。
(やはりムウは女神の黄金聖闘士なのだ……)
だが、童虎の方は感動しながらも、一抹の不安を感じていた。
(詳しく調べ過ぎて、とんでもないものを作らねば良いが……)
だが、最愛の娘の為にも、ここはムウに任せるしかなかった。

★★★
その日の晩、紫龍は人の気配で目を覚ました。
部屋を出てみると、台所で春麗が湯飲みを持ちながら、何か考え事をしている。
「春麗?」
「あっ、紫龍……。 ごめんなさい。起こしちゃったのね」
慌てて湯飲みを片付ける春麗。
「どうかしたのか?」
「何でもないわ。私、もう寝るね」
彼女はそう言って紫龍の横を通り抜けた。
(腕を伸ばして彼女が戻るのを止めたら、何かが変わるのだろうか?)
振り返っても、彼女の姿はもう見えなかった。