☆ |
|
| ☆ |
そのままの君でいて〜春麗18歳〜
その3 |
その頃、一人の少年を翻弄している愛らしい少女は、川辺で溜息をついていた。
|
その時、春麗は何かの匂いを感じた。
彼女は周囲を見回す。 「どうしたのですか?」 この時いきなり話しかけられて、春麗は飛び上がらんばかりに驚く。 「ムウ様!」 「何かあったのですか? 今にも泣きそうな顔をしていますよ」 端正な顔だちの青年に話しかけられて、彼女は俯いてしまう。 今日はどういうわけだか、ムウの顔がまともに見れない。 「何でもありません」 「春麗。私に嘘はつかないで下さい。 貴女をそのように育てた覚えはありませんよ」 老師の話によれば、赤ん坊の春麗が夜中に熱を出した時、ムウは一晩中看病してくれたと聞いている。 色々な意味でムウは春麗の家族なのである。 その青年に心配をかけている事に彼女は申し訳ないような気がして、素直に自分の苦しい胸の内を語り始めた。 「……ムウ様。老師や紫龍が好きな女性という人を連れてきたら、私、どうしたらいいのでしょうか?」 思いがけない問いかけに、ムウは絶句してしまう。 (老師や紫龍が????? 紫龍の場合は消せば済みますが、老師は困りましたねぇ) 瞬時に殺伐とした計画を練って完成させた彼だが、妹分の少女には優しい笑みを見せた。 「どういう事なのか、詳しく教えて下さい」 優しく問いかけられて、春麗は半分泣きそうな表情で頷いた。 |
(さて、どうしたものでしょうか) 春麗から理由を聞いたムウは、隣りでしょんぼりしている少女を見て、心が痛んだ。 モーレツオトメ現象になった時の事を話せば全ては丸く治まるかもしれないが、それは自分たちの都合であって春麗は担がれていると思うかもしれない。 何しろその時期の記憶が何故か無いのである。 こちらが必死になればなるほど、不信感を与えてしまう可能性もある。 (しかし、これでは紫龍の努力は何だったのですかねぇ) 春麗を元に戻す為に頑張ったというのに、当の本人にその気持ちが通じているとは言い難く、しかも今、居もしない恋人の存在を疑われているのである。 彼は笑いを堪えるのに必死だった。 そして春麗は自分にまとわりつく、ある種の匂いが気になっていた。 変な匂いではないが、なにか気になる香り。 (何だろう?) 彼女はちらりと、隣にいるムウの事を見た。 自分の兄とも言うべき青年なので、いつも素敵だなと思ってはいたが、今回は何故か見るたびにドキドキする。 |
ムウはとにかく今回の事は自分に任せるよう春麗を説得する。
二人が家に着くと、彼は代わりに有無を言わせずに紫龍を引きずって、大滝の方へ向かった。 童虎が大滝の側で寛いでいるからである。 春麗は不安げに二人の事を見送った。 |