INDEX

蘭燭

いったいこの小さな山に何があるのだろうかと思えるほど、ホテルの周りには人が多かった。
パーティの準備をしている者たち。撮影スタッフ。そしてジュネに会おうとする芸能レポーター。
「敵は5人だ」
「ジュネさんは今、戦闘能力が落ちていると思うから戦わせたくない」
瞬はホテルの方をちらりと見た。
「それじゃぁ、俺は外を探すから瞬はホテルな。 どっちかに多くいても恨みっこ無しだ」
「判った」
そして二人は頷きあうと、その場を離れた。

敵は結局、外に3人ホテル内に2人いた。

そして瞬がジュネの所へ行ってみると、彼女は一人の男を電話のコードで縛り上げていた。
その表情は聖闘士として闘っている時のジュネ。瞬の知っている彼女だった。
だが、服装がかなり乱れていて、胸の所はもう少しではだけそう。
「ジュネさん!」
瞬は男の胸ぐらを掴む。
「まさかこいつがジュネさんに……」
怒りで次の言葉が言えない。しかし、彼女は平然としている。
「逃げようとするから、縛り上げた所だよ。 多分、こいつがこっちの情報を流していたんだろうね」
瞬は途端に正気に戻って、男と部屋に居る別の女性を見た。
一般人である女性スタッフは、壁際で青ざめながらこちらを見ている。
「だって、それじゃぁ何でそんなにも服装が乱れて……」
「これは乱れているんじゃなくて、撮影用の服。
サイズに問題があって、彼女に直して貰っていたんだよ」
いきなり自分の事を言われて、女性スタッフは何度も頷いた。
「……それじゃぁ、僕の勘違い……」
女性聖闘士に勝てる一般男性なんて居ないのに、彼女の服の乱れに逆上した自分が恥ずかしかった。
力が抜けそうになるが男をこのままに出来ないので、瞬は捕らえて従業員に見張ってもらっている男たちの所へ引きずっていく。
後の事は警察に任せれば良い。これはグラード財団側の問題なのだから……。
一般市民が逮捕に協力しただけと言い張ろうとすら考えていた。

そしてその日の夕刊は、いきなりホテルでの逮捕劇が一面を飾った。
星矢も瞬も記事には載らない。
普通の少年が捕まえたとは思われなかったのである。
そして銀河戦争の時の少年たちと彼らが同一であると思われなかったのが不幸中の幸いだった。
逮捕に協力した人間は判らなかったが、注目のモデルが無事だったので強引に一件落着になったのである。

しかし、星矢自身には一件落着ではない事態が発生した。
星矢たちの行動をカラスを使って監視していた烏座のジャミアンを、攻撃しそうになったのである。
昔の怨恨は深くても、今は味方である彼に対して礼儀がなっていないという事で、星矢は魔鈴に引きずられるようにホテルを後にした。
「シャイナ、後は頼むよ」
「判った。星矢には白銀聖闘士に対する礼儀を教えてやれ」
制限時間を守ったので、瞬はダイダロスの元での再訓練は無し。
そして星矢と瞬は必殺技を使わずに行動した事が、ジャミアンとシャイナによって確認された。
後は書類を聖域の教皇に渡せば、白銀聖闘士たちの仕事は終わりらしい。
瞬とシャイナはロビーの椅子に腰掛けた。
「瞬、さっきジュネの所へ行ったのは、救出の一環という事で不問にしておいてやるよ。
それから今日はこのホテルではなくて、隣町のホテルに泊まってくれないか?
向こうには行けばそれで済むよう話はついている。 明日の昼には迎えの車が行く」
そう言って彼女は一枚の封筒を渡した。
ホテルの地図と観光案内の紹介が書かれている小冊子が入っていた。
瞬は自分の中の疑問を口にする。
「もしかしてシャイナさんたちがここに居るって事は、ジュネさんの鍛練を手伝っていたとか……?」
シャイナは楽しそうに笑う。
「そうさ。ジュネの技を鈍らせるわけにはいかないからね。
あたしと魔鈴の二人で訓練の相手をしていたよ。 まぁ、他にも手伝ってくれるのがいたし……。
とにかく島に戻ってから再訓練じゃ、ダイダロスもジュネも大変だ」
もういいだろうと彼女は言って、そのままフロントで鍵を貰うと自分の部屋へ向かう。
ジャミアンは他の仕事があるといって、聖域へと戻った。