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伏兵 その3
溢れる光編・1

 溢れる光

 彼女は上を見上げた。
 もう、ここにいてどれくらいの時間が経ったのだろうか。

 楽園とも言うべき世界。
 ここには美しい草花と澄んだ水と瑞々しい果物たちがある。

 でも、あまり長くいると、ここは非常に危険だった。
 この世界に取り込まれてしまうから。
 全てを忘れそうになってしまうから。

 悪い世界ではない。
 ここでは酷い怪我をしても時間をかければ治る。
 でも、世界と同化するのが早まる。

 どうにかしないと……。

 ジュネは魔鈴になんとか今の状況を伝えたが、さすがに異世界のような場所からの救助は聖闘士達には手に余ることかもしれない。
 もしも自分一人だけなら諦めもつく。
 だが、そうではない。
 だから諦めきれないのだ。

 とにかく脱出するための方法を探しつづけよう。
 そう考えてジュネが歩きだそうとしたとき、何かが震えるような音が聞こえてきた。
 穏やかだったこの世界で一度も聞いたことの無い音である。

 彼女は何かが起こるのだと判断した。
 そして駆けだす。

 あの子の傍にいないと!  


 雷は闇の力を消滅させながら、地下へと突き進む。
 それと同時に植物達が異常成長をして階段のようなものを作り上げた。

「行くよ!」
 瞬が躊躇わずに地下へ進むので、エデンも咄嗟に彼を追いかける。
 植物達は次々と蔓や根を蔓延(はびこ)らせながら潜っていく。
 エデンはたまに眩暈のようなものを感じたが、とにかく瞬の後を追った。
 ときどき、自分の横に光の様なものが見えた。
 気の所為かもしれない。

 そして二人は地下から光が差していることに気がつく。
 怪しいとは思ったが、二人とも目的の場所かもしれない。

 とうとう彼らの目の前に、美しい大自然の風景が姿を見せた。
「ここは……」
 明らかに地下にあるべき世界ではない。
 そして彼らはその世界に入れなかった。
 なにか透明な壁が、立ちはだかっているのである。


「瞬!」
 突如として現れた土色の壁。
 それの中央が崩れたかと思うと、ジュネたちの前に二人の男性の姿を姿を映し出した。
 彼らはジュネたちを見て非常に驚いていた。

「エデン!」
 ジュネの隣にいた少女が壁に駆け寄る。
「アリア!!」
 エデンはアリアがいることがわかり、とにかくがむしゃらに壁を壊そうとした。
 しかし、透明な壁にヒビらしいものが入った気配はない。
 エデンの拳に血がにじみ始める。

 不意に瞬とジュネは同じ方向を見た。
 何かがやってくる。

 そしてそれはカマイタチのような風の一撃だった。
 壁に小さなヒビが入る。


 同じ頃、風の遺跡では星矢とユナが水瓶座の黄金聖衣と、それを使用していた時貞を牢獄のような場所から助け出した。
 どうにも呪術的な文様の書かれた場所だったので、魔女メディアが何かしたのだろうと判断する。


 次に来たのは水晶のような鉱石の一撃。
 ヒビを見事に利用して壁に突き刺さる。
 瞬もジュネも、小さな恋人たちを壁から引き離した。


 やはりその頃、土の遺跡では山羊座の黄金聖衣と瀕死の黄金聖闘士イオニアが発見される。
「あの、魔女め……。私を遺跡封印の道具にした……」
 後に遺跡を地球復活の手段などに使われないよう、メディアはそこまで手を打っていたらしい。
 稀代の魔女は黄金聖闘士たちの命を最後まで利用していたのである。