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伏兵 その3
水の遺跡 〜 雷の遺跡編

 水の遺跡

 水の遺跡は五老峰にあった。
 ということで、龍峰が向かうことになったが、同伴者をどうするかという事態になったとき、聖域では多少モメた。
 双子座の黄金聖闘士であるパラドクスが行くと言ったのだが、五老峰には魔傷から回復した紫龍がいる。
 彼女は「エステに行ってくるから、一週間待って!」と言い出したので、速攻で玄武から「聖域にいろ」と怒鳴られる。
 結局、玄武が紫龍宛に信書を認めて龍峰に持たせた。
 龍峰は父親の紫龍と、水の遺跡攻略をすることになったのである。
 そして聖域からの同伴者には羅喜が選ばれた。
 彼女は遺跡に何かあったとき、春麗に害が及ばないよう一緒にいることになったのだ。

 残されたパラドクスは玄武を睨み付けながらも、「これから紫龍様に会うチャンスはいくらでも有るわ!」と、気を取り直して、牡牛座の黄金聖闘士であるハービンジャー相手に茶会をすることにした。
 ハービンジャーは逃げ出したかったが、フドウと玄武と出掛ける前の貴鬼によって双子座の黄金宮に閉じ込められてしまう。

「お前たち、覚えていろ!」

 雄々しき黄金聖闘士の叫びが聖域に谺(こだま)した。 


 火の遺跡

 蒼摩と玄武は崩れ落ちた遺跡の前に立った。
 そこはもう以前のような炎の気配はなく、とても静か。

「完全に機能が停止しているように見えるな」

 光牙を救えるかもしれない女性を助ける。  しかし、想像以上に遺跡が完全沈黙をしている場合、どうやったら再び機能が回復するのか見当がつかない。
 それでも諦めるわけにいかないので、二人は遺跡の中に入ることにした。
 正直言っていつ崩れてもおかしくないくらい危ないのだが……。

 それでも中を注意深く見て回ったが、遺跡から炎の気配は感じられない。

「こうなると向こうがあの人を連れて来てくれるのを期待するしかないな……」
 玄武の呟きに蒼摩は首を傾げる。
「誰か来るのか?」
 このような危険極まりない荒れた遺跡に?
 すると玄武は少し考えたあと静かに言った。
「連れてきてくれたら有り難いという話だ」
「……?」
「その人は炎の使い手なのだが、保護をしているのは独立聖闘士側。向こうが無視をしたらもう打つ手は無い」

 蒼摩はその返事に興味を引かれた。
 自分もまた炎属性の力を持っている。
 その自分でもどうすることも出来ない遺跡を、どうにかしてくれる炎の使い手がいるというのだ。
 しかし、連絡不可能な者たちがその人物を守っている。
 二人は立ち去るわけにもいかず、その人物が来るのを待つ。

 しばらくして、二人の人間が遺跡にやってきた。
 一人はマントを頭からすっぽりと被った女性。
 もう一人はごく普通の男性だった。
 一応、探検を出来る格好ではある。

「よく連れてきてくれた。ミスター・ルードヴィグ、来てくれて感謝する」
 玄武の言葉に、蒼摩は自分の耳を疑った。


 ルードヴィグ。軍神マルスとなって女神アテナと敵対し、魔女メディアと共にマーシアンたちを使って世界中を恐怖に陥れた者。

 しかし、蒼摩の目の前にいるのは、とても優しそうな男性だった。
 彼はごく普通に玄武と握手をしている。
「ここを探検すれば良いのですね」
 しかも、やたら穏やか。彼はそのまま遺跡に近づく。
 このときルードヴィグが蒼摩の横を通りすぎた。
「えっ……」
 マグマが近づいているかのような膨大な熱量。
 そして恐怖。

 蒼摩は真っ青になって玄武と一緒に遺跡に向かう男性の背中を見た。

(なんなんだ……)
 あまりの力の差に、動くことができない。
「彼には炎の方が従う。それだけのこと」
 独立聖闘士側らしい女性が、そう告げて同じように遺跡へと向かった。
 蒼摩はその女性の顔を見る。
 しかし、彼女は仮面をしていた。

 この後、遺跡から熱が溢れだす。
 火の遺跡が再び炎を生み出したのだった。 


 雷の遺跡

 エデンは瞬と一緒に雷の遺跡に来ていた。
「君が旅に出ていないでくれて助かったよ」
 医者であり伝説の聖闘士である人物は、非常に穏やかな表情を見せている。
 しかし、エデンにはなんとなく彼が見た目よりも強固な精神力を持っているような気がした。

 実際に伝説の聖闘士である星矢から、「ジュネがらみで瞬に逆らうな」と出掛ける前に何度も念を押された。
 彼にとってジュネという女性は幼いころより一緒にいた大事な女性。なのに魔傷の一件と向こうは独立聖闘士ということで一緒にいることが出来なかった。
 だから今回、瞬は絶対にジュネを助け出したいと思っている。
 その説明に、エデンはアリアを思い出した。

(彼の力になれば、アリアも喜んでくれるだろうか?)

 だが、どうすればこの遺跡は機能を回復するのか。
 すでに崩れたその場所は完全に建物の跡のようなものは見当たらず、エデンが案内しなかったら遺跡だったことすら分からない有り様なのだ。
 瞬はと言うと、あちらこちらと植物を見ているようなのだが、とある場所にて急に立ち止まる。そして胸元からアンドロメダ座のクロストーンを取り出すと、いきなりアンドロメダ座の聖衣をまとったのである。
「何かあったのですか!」
 エデンが駆け寄ると、瞬の足元には遺跡の一角で花を咲かせている植物たち。
「他は乾いた土なのに、ここだけ花が咲いているよね」
「……はい」
「この部分の植物が枯れているよね」
 彼はしゃがみ込む。そしてある一点を指さした。
 何が原因が、葉が黒くなって枯れている株がある。
「この黒いのは、闇の力だよ」
 彼の言葉にエデンは驚いた。

「闇の…力」
「なんで分かるんだと言いたそうな顔だね」
「……」
「僕もアプス由来じゃないけど、闇の力に近いものを持ったことがあるんだよ」
 瞬の場合は、冥王ハーデス由来のものだった。
 冥府の世界を支配する神は、彼を依代に選んだのだ。
「僕の師匠だったダイダロス先生はとにかく頭のいい人でね。闇の力に関して何かを察していたみたいで、姉弟子のジュネさんに闇に抗う手段をいろいろと教えておいてくれたんだ」
 瞬の場合は聖戦のときにいきなり冥王から依代扱いを受け、そして自力で退けた。
 そのため、ジュネが手助けをする事は無かったのだが……。
「冥王の持っていた闇とは違う気がするけど、たぶん、この黒い部分は植物達を浸食し始めている」
 このとき、エデンの脳裏に闇の遺跡のことが思い出された。
 もしかすると雷の遺跡から闇の遺跡に行けるかもしれない。

 だが、そこに行ってどうする。
 アリアを、彼女が生きていた証を探せるのだろうか?
 だが、それを見つけてしまって自分は正気でいられるのだろうか。
 しかし、このままでは光牙も目を覚ますことは難しい。
 女神アテナが傍にいても、彼は無反応なのだ。

 エデンは拳を握ったあと、覚悟を決めた。
(光牙は助ける。それがアリアの望みなのだから) 

 瞬はエデンの様子をしばらく見たあと、再び草花の方を見た。
「エデン、この黒い部分に雷属性の小宇宙をたたき込んでくれないか」
 雷は大神ゼウスの武器でもある。
 そしてこの場所は雷の遺跡のあった場所。その破壊力に補正がかかる可能性もあるし、遺跡の何かが機能を回復するかもしれない。

「分かりました」

 エデンは呼吸を整えると、精神を集中させる。
 そして思いっきり自分の小宇宙を大地に叩きつけたのだった。