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伏兵 その3
病室 〜 土の遺跡編

 病室

 身体の傷は回復に向かっている。
 同じように闇の神アプスとの戦いで負傷した若き青銅聖闘士たちの方は、ほとんど退院した。

 しかし、光牙だけは目を覚まさない。
 彼はずっと眠り続けていた。

 どうしたらいいのか。
 誰もが重々しい雰囲気で病室の彼を見舞ったが、光牙は眠り続けたままである。
 そんなとき、遠い異国の地から瞬がやってきた。

「光牙くんを目覚めさせることが出来るかもしれない人、一人知っているよ」

 その言葉に、見舞い客たちは驚いた。 


 風の遺跡

 星矢は崩壊した遺跡を見上げた。
 その隣にはユナ。彼女は遺跡への案内役だった。
「とにかく探そう。ここには風のエネルギーを制御するアイテムがあるかもしれない」
 彼は瓦礫の上を軽やかに移動する。
 ユナもそのあとに続いた。
 二人は今、この遺跡を使えるようにしなくてはならないのだ。


  ──僕の姉弟子のジュネさんが、闇の力についてダイダロス先生からいろいろと教わっているはず。その中には闇の眠りに囚われた人を目覚めさせる方法もあるかもしれない。

 しかし、ジュネは行方不明。瞬自身もずっと彼女を探していた。
 ところが先日、瞬のもとに独立聖闘士となった魔鈴から荷物を渡されたのである。
「これを今のペガサスの聖闘士に渡しなさい」

 それは織物だった。白い花らしき模様が織り込まれている。
 そしてこのとき、瞬は驚くべきことを聞かされた。
 ジュネの隠れ潜んでいた場所が、世界中に点在する五属性の遺跡の崩壊により、結界と化してしまったのだ。
 そのため、彼女は特定の条件下でしか、外部と接触が取れなくなってしまう。
 ならば遺跡をもう一度復活させれば、そこから助け出すことが出来るのではないか。その場所と遺跡が連動しているのだから。
 魔鈴は「頼んだよ」と言って、再び姿をくらましてしまう。

 そこで聖域の聖闘士達は一丸となって、ジュネの救出を行うことにしたのである。

「星矢さん、独立聖闘士って何ですか?」
 ユナは疑問を口にしたが、これには星矢も正確には答えられない。
 わかっているのは聖域から独立聖闘士への連絡は無理。向こうからの連絡待ちということ。
 なぜなら敵陣へ潜入している可能性もあるし、獅子身中の虫を倒す算段をしている最中かもしれないから。
 これを邪魔することは許されない。
 そして女神アテナはその地位にいる者たちに関わらないよう、他の聖闘士たちに命じていた。
 
「そういえば、ユナはアクィラ(鷲座)だったな」
 いきなりの話の切り替えに、ユナは何事かと驚く。
「そうです」
「実は俺の師匠、魔鈴って言うんだけど、イーグル(鷲座)なんだよ」
 初めて聞く話に、彼女はもっと驚いた。
「本当ですか!」
「あぁ、本当だ。でも、魔鈴さんのイーグル聖衣は特殊仕様で、彼女にしか使えない状態だったんだよ」
 いつのまにそうなっていたのか、何故そうなのかは先代の修復師だったムウにも不明のため、そのまま聖衣は魔鈴専用扱いになる。
 しかし、そうなると鷲座の聖衣が永久欠番状態になってしまうので、新たにアクィラとして作り直されたのだ。
「鷲座という存在には何か意味があるのかもしれない。魔鈴さんのことでユナに力を借りることがあるかもしれない。そのときは頼む」
 自分の聖衣の意外な秘密に、ユナは緊張した面もちで頷く。
 このとき、遺跡の上空を風が吹き抜けた。
 そして遺跡の瓦礫の上で、小さなつむじ風が起こる。
「星矢さん、あそこ!」
 ユナは遺跡が風を起こしたことに気がついた。 


 土の遺跡

 貴鬼たちは栄斗の案内で、森の奥にある土の遺跡へやってきた。
 遺跡の地上部分は壊れていたが、一カ所だけポッカリと地下へ続く階段がほとんと無傷で残っていた。

「こんなところに地下へ続く階段があるとは……」
 栄斗が驚いていると、貴鬼の隣にいた人物が言葉を発した。

「ミケランジェロがさっさと退却したのは、この場所を守るためザンスかねぇ?」

 青銅聖闘士としては海蛇(ヒドラ)座、白銀聖闘士としては水蛇(ヒドラス)座の市が懐かしげに腕を組んでいた。
 今回、羅喜は別行動である。

「では、市先輩。先輩からどうぞ」
 栄斗に促されて、市はもう一度階段を見た。

 土の遺跡を彼らで攻略することになったのは、その遺跡の力を制御するのも理由の一つなのだが、貴鬼が珍しい鉱石があったときに、そちらも調べて持ち帰りたいと言ったからである。
 そういうときに遺跡の力場が超能力を拒否するような性質だった場合、最後は人力だけが頼りである。
 貴鬼は経験上、それが否定できない事例を知っていた。
 ゆえに、忍術が使える栄斗と隕石の影響下でも無属性っぽかった市が選ばれた。

 結局、先頭は栄斗になり、三人は階段から遺跡の奥に入る。階段は螺旋の如くカーブしており、胡散臭いくらいに長い。
「これは怪しすぎるザンス」
 しかし、今の段階では誰が何の為に作ったのか。判断をする材料は何もなかった。
 しばらくして彼らの前に扉が現れる。
「明らかに怪しいですが、開けますか?」
 栄斗の問いかけに市と貴鬼はお互いに顔を見合わせる。
 改めて尋ねられたところで、開けなくては何も始まらない。
「では、行きましょう」
 その扉はけっこう重く、三人がかりでようやっと開いたのだった。