「お前が……いた、だと……?」
玄武はその言葉に驚く。
「オリオン座の聖闘士だったエデン兄上に同行したんだよ。兄上は師匠のダイダロスに私を会わせたかったみたいだけどね」
その言葉に玄武は、謎が一つ解けたような気がした。
「今のオリオン座は、その人の身代わりか?」
「……どうだろうね。姉上の気持ちは姉上本人にだって分かっていなかったかもしれないから、その問いは無意味だよ」
だた、魔女メディアは復讐者として女神アテナと聖闘士たちを闇に突き落とした。その事実があるだけ。
「とにかく私はあの現場にいた。どうして無事だったのか、わかるかい?」
「……」
「一人の聖闘士が守ってくれたんだよ。それこそ島で仲間が殺されてゆく気配を我慢しながら」
このときアモールは気配を隠す方法を、その聖闘士から教わった。
そして後に彼は、黄金聖闘士でも容易に察することが出来ないくらいの完璧に気配を隠す術を手にする。
「彼女は恐怖と敵意を飲み込んで、私を抱きしめて守ってくれた。だから今でも私は彼女に対しては恩義がある」
しかし、女神が魔傷を食らうほどの激しい戦闘の前後でも、彼女は出てはこなかった。
「それはカメレオン座のジュネのことか……?」
「当たり。聖域が抹殺した彼女だよ」
アモールの表情が険しくなる。
そして玄武も瞬時に反論した。
「違う! 聖域は彼女を捜していた。あの粛正で何があったのかを知りたいと思ったのはお前たちだけではない。アンドロメダ瞬は、それこそ彼女がマーシアンたちに何かされたのではないかと考えていたくらいだ」
玄武はこの時期の瞬を知っている。あのときの彼は、生ける屍に近かった。
そして今でも、彼はカメレオン座の聖闘士を探し続けている。
消息が不明ならば、絶対に生きていると信じて。
しかし、アモールは眉を顰めて不愉快そうな表情をする。
「マーシアンたちがそんなことをするわけがないよ。彼らはマルスさまの配下という位置だけど、四天王や一部のマーシアンは私たちメデューサの血を受けた一族の者だ。彼女に対してだけは礼節を忘れないよ」
それゆえの統率かと、玄武は改めてメディアの恐ろしさを知る。
マーシアンは闇の小宇宙を持っていたが、それがアプス由来なのかメデューサ由来なのかは、聖闘士側では見分けがつかない。
しかし同じように見えて、その力の格は違う。
アプス由来のものは付け焼き刃か、それとも真に深い闇に適合するかの両極端に分かれるが、メデューサ由来は平均的に高い能力を持っている。
あの四天王もまたメデューサ由来では、彼らもまた復活するのだ。
「エデン兄上の死によって、私たちの運命は決まった。あとはご存知の通りだよ」
軍神マルスを媒体にして闇の神アプスを地上に降ろす。
すべてに絶望していた彼らだから出来たことかもしれない。
「正直言って、私も姉上も君が天秤座の黄金聖衣をまとって現れたときは驚いたよ。これで紫龍を殺し損ねたってね」
紫龍が魔傷に耐えながら天秤座の聖衣をまとえば、聖衣そのものを壊して紫龍に止めを刺すつもりだった。
しかし、玄武が天秤座の聖衣をまとったため、その計画は無くなる。
メデューサ由来の闇を持つ者に、メディアの魔力は無意味だったからだ。
「さて、話が多少それたけど、それならアンドロメダ島の粛正の時、どうしてエデン兄上だけメデューサと同じ方法で倒されることになったんだろうね」
不自然な形の死。
それが問題だった。
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