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玄黄のシナリオ その5

「アンドロメダ島の粛正……」
 貴鬼は思わず呟く。
 彼がの師匠がまだ生きていた頃にあった、聖域最大の汚点とも言うべき事件。
 その時代に双子座の黄金聖闘士であったサガが、自分のことを疑っていた白銀聖闘士・ケフェウス座のダイダロスを弟子たちと一緒に葬ったのである。
 実際に手を下したのは、サガの悪事に荷担していた魚座の黄金聖闘士・アフロディーテ。
 ただ、この一件はダイダロスの弟子であるアンドロメダ座の瞬がアフロディーテを倒し、サガや彼に荷担した他の者たちも倒されたことで、一応の決着はついた。
 そして反逆者であった彼らも、聖戦のおりには女神アテナを守ったことにより、その名誉は回復されたのである。

  だが、これは聖域側の理屈だった。 


「ところで玄武は、どうして再び聖域に関わろうと思ったのかい? 見つかれば殺されるのが分かっていたのに」
 アモールの興味津々な問いかけに、玄武は彼を睨む。
「聖域はそこまで腐敗してはいない」
 その返事にアモールは笑った。
「しているよ。腐っていなければ、どうして黄金聖衣が常にアテナの味方だなんて、御花畑のようなことを聖闘士たちは正しいと思いこんでいられるんだい?」
「……」
「魚座の聖衣が私に従った。それだけでも黄金聖衣はアテナに服従しているわけではないって気づくと思うけど。まぁ、あの女神だって、すべての人間の味方ってわけじゃないから、バランスは取れているかもね」
「アモール! 女神を侮辱するな!」
 玄武は声を荒らげた。
 だが、アモールは玄武が反応したことが嬉しいらしく、言葉を続ける。
「アンドロメダ島の粛正」
「なにっ!」
「玄武もその意味が分かったから、五老峰を離れたんじゃないのか? このまま、ここにいたら自分は殺されるって……」
 その言葉に玄武は昔を思い出す。
 アンドロメダ島の粛正が五老峰に伝わったとき、老師は自分にここにいるよう言ってくれた。
 だが、耐えられなかった。
 自分を守ろうとすれば、老師たちは反逆者の汚名を着せられてしまう。一般人である春麗も殺されてしまう。
 だから出ていったのだ。
 証拠がなければ、聖域も老師たちに手出しは出来ないはずだと思ったから。
「実際にアンドロメダ島はたった一人の聖闘士を残して、全滅したとされているよね」
「……」
「その現場に私も居たと言ったらどうする?」
 アモールは楽しそうだった。