「……アモール」
少し離れた場所にある折れた柱の上に座っているのは、魚座の黄金聖闘士・アモール。
彼は笑みを浮かべていた。
「いつか来るとは思っていたけど、けっこう早かったね。聖闘士たちに裏切られたのかな?」
その問いかけに、玄武は不快感を露わにする。
「違う」
「まぁ、彼らを信じているのなら、それでいいよ」
「……」
「ところで、やるもんだねぇ。このメデューサ像、マルスさまが壊した筈だけど修復したんだね」
アモールは見上げる。
「闇の力の暴走による地球破壊を避けるために、メデューサ像を元の姿に戻したんだろ。おかげで地球に広がっていた闇の力がここに流れ込んだ。しかし、ここまで来る命知らず、いたんだねぇ」
アモールは再び玄武を見る。
「教えてくれないか。それを成し遂げた勇者サマを」
その目は笑っていないが、ここで玄武が黙ったところでアモールはすぐに察する。
彼はそう判断して、口を開いた。
「キグナス氷河とアンドロメダ瞬だ……」
このとき、一瞬、アモールの表情が険しくなる。
何か苦々しいという雰囲気だった。
「へぇ〜、あの人、今回は動いたんだ」
「……」
「要するに、ネビュラチェーンで首を元に戻し、氷で固定したということか……。やっぱりあの人たちは殺しておくべきだったなぁ。姉上を説得しておけばよかったよ」
その言葉に玄武は思わず叫ぶ。
「アモール! 貴様がここにいるということは、メディアもいるのか!」
二人はにらみ合う。
しばらくの沈黙の後、アモールが口を開いた。
「姉上とは会っていないよ」
「会っていない?」
「姉上は魔女だよ。ここに来なくても別に困らないんじゃないのかな」
その返事に玄武は拳を握る。
メディアが生きているかもしれない。それは聖域にとって非常に危険な話である。
復讐者はまだ生きているということなのだから。
ところがそんな玄武を見て、アモールは笑う。
「まぁ、焦ったところで、上に向かう階段が出てこないとダメなんだから、気楽にしたら?」
このとき、玄武はあることにようやく気が付いた。
「上に向かう階段待ちと言うことは……、貴様も肉体がどこかにあるのだな!」
アモールは失言をしたかもと、また笑った。
「ご明察。姉上は私を闇の力の生け贄にしようとしていたからね。ちょっと安全策を取らせてもらったよ。アプスの力が強すぎて、けっこうヤバかったけどね」
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