肌が生気を取り戻したわけではないが、確かに玄武は浅く呼吸を繰り返している。
貴鬼は古くからの友人の言葉を待った。
しかし、相手は意外なことを言う。
「貴鬼、ありがとう。この事は口外しないでくれ」
礼を言いながら紫龍は帰るよう促している。
貴鬼は慌てて彼の腕を掴んだ。
「紫龍、説明してくれ! 玄武は助かったのか?」
何の説明もなく帰れるわけがない。玄武は大切な仲間なのだ。
それに、この事を知れば喜ぶ人たちが大勢いる。
「……貴鬼、これ以上玄武のことを知れば辛くなるぞ」
「それでも彼は戦友だ」
自分にも何か出来るかもしれない。なのに関わらせてもらえないと言うのは、信用されていないのではないか。
貴鬼は「頼む。教えてくれ」と訴える。
すると春麗もまた紫龍に取りなす。
「今の貴鬼ちゃんは、羅喜ちゃんのお師匠さまよ。もう小さな子供じゃないわ」
妻の言葉に「そうだな……」と彼は呟いた。
「貴鬼、少しだけ長い話になる。パライストラの方は大丈夫か?」
頑固な友人が軟化したことに、貴鬼はぱっと明るい表情を見せる。
「それは大丈夫だよ。ジャミールに修復の材料を取りに行くついでに、足りない材料を調達するため幾つか寄り道をすると言ってある」
そして弟子の羅喜については、アクィラのユナに預かって貰ったと説明した。
今回ばかりは天秤座の黄金聖衣の修復が控えているので、羅喜も師匠の言いつけを守る。
敵側も破損した天地崩滅斬を修復しないとならない。
そのときジャミールで管理している材料や、場合によっては貴鬼の修復技術を狙われたら大変である。
想像の領域でしかないが、警戒はするべきだろう。
そのとき一番足を引っ張りそうなのが自分なのだと、彼女は理解していた。
「では、時が来るまで今からする話は、その胸に納めていてくれ。龍峰にも羅喜にも秘密だ」
貴鬼は椅子を用意する。
紫龍もまた玄武が寝かされている寝台に浅く腰掛けた。
春麗は「私はお夕食を作るわね。貴鬼ちゃんも食べていって」と目を赤くしながら二人に告げて部屋を出ていく。
外からは滝の流れ落ちる音が聞こえている。
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