「とにかく、こちらへ運んでくれ」
家の中に入ると、紫龍はとある部屋の寝台に玄武を置いてくれと言った。
貴鬼は頷いて、彼をその場所に横たわらせる。天秤座の黄金聖闘士・玄武は眠っているかのようだった。
ただし、その体に温もりはない。
このとき、どこかに出かけていた春麗が家に戻ってきた。
貴鬼はこれから起こるであろう春麗の悲嘆を思うと、心が苦しかった。
しかし、彼の最期をちゃんと伝えないとならない。
どんなに厳しくも優しい男だったか。
龍峰たちに慕われていたか。
だからこそ避難民を動揺させることになっても、玄武の墓は必要だった。
若い聖闘士達の拠り所であり、敵には天秤座の黄金聖闘士が死んだことを知らせなくてはならない。
その亡骸を五老峰に人知れず持ち込んだ以上、何かあるのではと疑われたくはない。
天地崩滅斬の所有者に勘繰られては、余計な犠牲を出すことになりそうだから。
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