氷のピラミッドは奥に進むにつれて壁や床の透明度が高くなっていく。
次に辿り着くであろうイプシロン星を司る部屋や、それよりももっと下に見える部屋まで四角いボックスのような状態で見える。
「もう既に、壁も床も氷以外の何かなのかもしれない」
アイザックの言葉には妙な説得力があった。
「巫女姫、これ以上は危険だ。クリシュナ達と共に上で待っている方がいい」
カノンとしては危険地帯に踏み入れる以上、足手まといな存在は減らしたかった。空間そのものが敵地ならば、相手はなりふりなど構わずに攻撃を仕掛けることが考えられるからだ。
一応、アルベリッヒについては未だに意識を取り戻さないので、クリシュナが少々責任を感じて彼を担いで出入り口まで戻っていった。
これは部屋を壊す毎に、ベータ星の部屋へ繋がる廊下に何か異変が起きていないか見張るという意味も兼ねている。
「ヒルダ様は我々が守る。余計なことは考えなくていい」
さすがにミーメの目つきが厳しくなる。彼が先に怒ったので、トールが自然と宥め役になった。
「とにかくイプシロン星はフェンリルだけだが、その次のゼータ星の部屋は二人がかりで対応しないとならない。でも、そちらの海将軍は一人だけだ」
その場にいた者たちは全員がイオを見た。
神話ではスキュラと対のように言われているカリュブディスがいるのだが、スキュラの海将軍であるイオにはカリュブディスに該当する存在がない。これについて意味があるのかないのかは、今考えても仕方のないこと。とにかく誰かがカリュブディス役をやることになるだろうというのが全員の考えだった。
ただ、それをヒルダがやることだけは避けたいのも彼らの正直な気持ちだった。
「おい、ここは部屋じゃないか?」
ミロの言葉に全員が立ち止まる。 いきなり廊下から広々とした空間に彼らはやって来てしまった。
壁などの透明度が異常すぎたのか、彼らは直前まで部屋の存在に気がつかなかったのである。
そして部屋の中央らしき場所に、一人の青年が立っている。
「……先生」
アイザックは自分の恩師がいきなり現れたことに茫然としてしまった。
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