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続・異変 4

 しばらくして部屋が崩壊し、クリシュナが瓦礫の中から現れる。右腕で自分の黄金の槍(ゴールデンランス)とアルベリッヒの炎の剣を抱え、左手で気を失っているメグレスの神闘士の右手首を掴みながらである。
「……」
 しかも、怒っていた。
 ミーメとトールは何があったのかを薄々悟り、海将軍たちとミロには何が何だか分からない。
 ヒルダだけが素直に二人の帰還を喜んでいた。


 デスクィーン島のあった海上の空間に、二番目の亀裂が入る。それは空中に突如として現れた巨大な黒い枯れ木のようだった。
 そこから一番近い小島には童虎とアイオロスがいる。

「サガの必殺技で空間を破壊できませんか?」
 アイオロスの問いに童虎は首を横に振った。
「力業で開けてはならないと女神は言われた。カノンたちが全ての封印を解くのを待つんじゃ」
 無理矢理こじ開けたことが、万が一にも取り返しの付かない事態を呼んでは意味がない。
 そもそもこの空間の奥がどうなっているのか。彼らには見当がつかなかった。

 氷のピラミッドは奥に進むにつれて壁や床の透明度が高くなっていく。
 次に辿り着くであろうイプシロン星を司る部屋や、それよりももっと下に見える部屋まで四角いボックスのような状態で見える。
「もう既に、壁も床も氷以外の何かなのかもしれない」
 アイザックの言葉には妙な説得力があった。

「巫女姫、これ以上は危険だ。クリシュナ達と共に上で待っている方がいい」
 カノンとしては危険地帯に踏み入れる以上、足手まといな存在は減らしたかった。空間そのものが敵地ならば、相手はなりふりなど構わずに攻撃を仕掛けることが考えられるからだ。
 一応、アルベリッヒについては未だに意識を取り戻さないので、クリシュナが少々責任を感じて彼を担いで出入り口まで戻っていった。
 これは部屋を壊す毎に、ベータ星の部屋へ繋がる廊下に何か異変が起きていないか見張るという意味も兼ねている。
「ヒルダ様は我々が守る。余計なことは考えなくていい」
 さすがにミーメの目つきが厳しくなる。彼が先に怒ったので、トールが自然と宥め役になった。
「とにかくイプシロン星はフェンリルだけだが、その次のゼータ星の部屋は二人がかりで対応しないとならない。でも、そちらの海将軍は一人だけだ」
 その場にいた者たちは全員がイオを見た。
 神話ではスキュラと対のように言われているカリュブディスがいるのだが、スキュラの海将軍であるイオにはカリュブディスに該当する存在がない。これについて意味があるのかないのかは、今考えても仕方のないこと。とにかく誰かがカリュブディス役をやることになるだろうというのが全員の考えだった。
 ただ、それをヒルダがやることだけは避けたいのも彼らの正直な気持ちだった。

「おい、ここは部屋じゃないか?」
 ミロの言葉に全員が立ち止まる。 いきなり廊下から広々とした空間に彼らはやって来てしまった。
 壁などの透明度が異常すぎたのか、彼らは直前まで部屋の存在に気がつかなかったのである。

 そして部屋の中央らしき場所に、一人の青年が立っている。
「……先生」
 アイザックは自分の恩師がいきなり現れたことに茫然としてしまった。