しかし、アイザックの事情など知らないヒルダは反射的に青年の方へ駆け寄ろうとする。
「ヒルダ様！」
　トールがすぐにヒルダの前に立ちふさがった。
　青年から危険な雰囲気は感じられなかったが、味方ではないだろう。青年もまたトールがヒルダを止めてくれたことにほっとしているようだった。
「イサ！　フレアは……妹は無事ですか」
　止められながらもヒルダは話しかける。彼に会ったとき、何よりも先に聞きたいのは妹の安否だったからだ。
「あの子は何処にいるのですか」
　すると彼はとある一点を指さす。
　ヒルダ達がその方向を見るとイプシロン星を司ると思っていた部屋が歪みだし、一種の望遠レンズへと変化したのか部屋の中が見えるようになった。
　中にいたのは二人の人間。どちらもマントを頭から被っていたので正体が分からなかったが、そのうちの一人がヒルダ達の方を向いた。そして被っていたフードを外すと、美しい金色の髪が零れた。

「フレア！」
　ヒルダは妹がここにいるという事実に驚き、叫んでしまう。
　これには闘士たちも言葉が出ない。今までのやり方では、近いうちにあの部屋も崩れるだろう。相手はそう言っているのだ。
　しかし、フレアの方は再会を素直に喜んでいるようである。向こうの声は伝わらないので言葉を交わせないが、屈託のない笑顔だった。
「先生！」
　アイザックが再び彼の方を見たとき、もう既に青年の姿はなかった。

　そして目の前に急に部屋が現れる。 どうも光の屈折を利用したのか、目の前の部屋を隠していたらしい。
「カーサ、頼んだぞ」
　カノンの言葉にカーサは頷く。
　ただ、野生の狼に育てられたフェンリル相手に己の技がどこまで通用するのか。
　リュムナデスの海将軍には少々分の悪い闘いだった。