ANIME-目次

   

続・異変 1

 暗闇の中で、それは僅かな光を放つ。

「我等が女神のご機嫌は如何ですか?」
 ギガースが含み笑いをしながらアーレスに尋ねる。
「……奴らの小宇宙に反応している。氷の大地に遊びに行きたいらしい」
 この返事に彼は喜んだ。
「ならばグラキエースも喜ぶでしょう。何しろ女神に捧げる乙女を用意したのは彼なのですから」
 この言葉にアーレスは何も言わず、その場を立ち去る。
 ギガースは不愉快そうにその後ろ姿を見送った。


 
──若キ世界ニ与スル裏切リ者メ……。


 氷のピラミッド周辺に生暖かい風は吹く。それと同時に建物を取り囲む大地から水が吹き出した。
 何処に水源が存在するのか分からないが、明らかにピラミッドは水没しようとしている。

「なんだこれは!」
 通路の奥へとピラミッドの中を調査していた海将軍たちが驚きの声を出す。
「これはただの水じゃない!」
 海を支配下に置くポセイドンの闘士たちである。鱗衣をまとっているというのに水に溺れるということはあり得ない。
 だが、ピラミッドを飲み込もうとする大量の水は勝手が違った。とにかく彼らを拘束し、そのまま滅ぼそうとしている。
 その騒ぎとただならぬ様子に、カミュは「水没などさせるか!」 と叫んで自らの小宇宙を壁に叩きつけた。
 数秒のうちにピラミッドが凍りつく。そしてその凍った水はカミュの腕を捕らえていた。
(この水は意図的な力が働いている)
 このとき彼は女性が笑っているような影を見たような気がした。

「カミュさん!」
 ヒルダが驚きの声を出す。
「私は大丈夫。ただ、ここで気を抜くと水が再びこのピラミッドを襲う」
 海将軍ですら溺れさせようとする水である。捕らえられているであろう神闘士など、あっさり息の根を止めかねない。
 カミュはこの時点で動けなくなってしまった。
「クラーケン、さっさと終わらせろ!」
 異常事態のため戻ってきたカノンが、アイザックの入っていった真っ暗な部屋に向かって怒鳴る。
 しかし彼からの返事はなかった。


「敵襲か!」
 いきなり出現した大水は、海将軍の作った入り口付近にまで達しようとしていた。
「このままではここは湖になるぞ」
 ミロは中の様子を確かめようと、ピラミッドへと向かう。
 シュラもまた事態の異常性に危機感を覚え、ミロの後を追った。
 ところが途中で足元の氷がアメーバのような動きを見せたのだ。
「これは!」
 水は何度切られても修復を繰り返し、シュラを蒼い空間へと引きずりこむ。
 それはとても静かな出来事で、ミロもアイオリアもシュラの身に何が起こったのか知らない。

 このとき地上では周囲に熱い風が吹き始めた。
「?」
 アイオリアは獅子座の黄金聖衣が何か音を出しているような気がした。
 だが、実際には何も聞こえはしない。

「獅子座と山羊座を寄越すとは、なんたる好都合」

 仲間ではない者の声にアイオリアは振り返る。
 そこにいたのはパエトン。 明らかに殺気を漂わせていた。
「ウガルルムのパエトン……か?」
「獅子座のアイオリア。貴様を倒せばウガルルムは進化を遂げる」
「ならばここで完全に破壊させてもらう」
 
 熱い風の影響でピラミッドの氷が溶けようとしている。
 カミュは全神経を集中させた。