ミロと接触したアーレスは、そのまま聖域から姿を消す。 貴鬼は初めて会う前教皇に、何となく不穏な空気を感じた。 「アーレスが居ただと……」 社殿にて聖戦の事後処理を少しずつやっていた童虎は、ミロからの報告に表情を硬くする。 (女神ヘカテが蘇生させたのは黄金聖闘士と海将軍、そして三巨頭じゃ。アーレスは誰の力を得てこの世に蘇ったのだ?) サガの反逆によって倒された前教皇。だが、彼は黄金聖闘士ではない。シオンの急逝により教皇職を誰が行うかとなったとき、他の黄金聖闘士達が幼すぎた為に彼が代行をしていたのである。 何しろアーレスは当時からシオンを補佐しており、聖域のしきたりなどを誰よりも知っていたのだ。 「老師。今からデスクィーン島にいる女神たちにも伝えておきますか?」 ムウの問いに童虎は考え込む。 「……」 当時幼かった黄金聖闘士達にとって彼は良き先輩であり、尊敬に値する存在だった。童虎もまたアーレスを信頼していた。 その彼が聖域を裏切るとは信じられなかったが、女神と敵対するというのなら迷っている時間はない。 「ムウ。行ってくれ」 このとき童虎の脳裏に、アスガルドの事件とアーレスの存在が繋がっているのではないかという疑惑が芽生えた。 |
同じ頃、女神エリスの仕掛けた『亡霊聖闘士捕捉イベント』は聖域中を舞台に続行されていた。 まず最初に捕らえられたのはアフロディーテと対戦した矢座の魔矢。その勝負の結果は捕まった方よりも捕らえた側の方が少し疲弊していた。 何しろ完全復活の身体ではないので、回復力が通常よりも落ちているのだ。 しかし、彼らは己の誇りをかけて、次々と亡霊聖闘士達を捕らようとする。 そして二番目に捕まったのは盾座のヤンだった。彼はシュラと共に社殿のとある一室に入る。部屋の窓辺では魔矢が何か考え事をしていた。 「なんだ。もう捕まっていたのか?」 ヤンは意外そうに仲間を見る。 「あっさり捕まったよ。やはり黄金聖闘士は強いな」 そのあと雑談が始まったので、シュラは部屋を出る。 魔矢はその気配が遠くなるのを確認すると、今度は困惑した表情でヤンを見た。 「……ちょっと気になることがあって、そっちに気を取られたら捕まった」 「気になること?」 「黄金聖闘士たちから逃げているとき、知り合いを見たんだ」 仲間の言葉にヤンはしばし考え込む。 亡霊聖闘士である自分たちに知り合いと呼べるものは何であろうかと。 「それはいったい誰だ?」 「アーレスという男だ。俺のいた時代で教皇補佐をやっていた」 「……」 「他人の空似というには、どうにも似すぎている。だが、仮に同一人物だとしたら、あいつはいったい何者なんだ?」 過去から現れた者は、自分たちの存在よりも遥かに謎が多かった。 |