ANIME-目次

   

クーデターの行方 1

ワルハラ宮殿を襲ったクーデターは、行方不明だった神闘士の一人が帰還したことにより急転直下で鎮圧の方向へと進んだ。
この地を守護し続ける闘士の帰還を知り、大臣たちの勢力に抑えつけられていた者たちが反旗を翻したからだ。
ほどなくして大臣とその一派は捕らえられ牢屋へと送られる。
そして、ほぼ軟禁状態だったヒルダはミーメによって助け出された。
この救出劇に、主神オーディンの地上代行者は驚きを隠せない。
だが、遅れてアスガルド入りをした沙織から他の神闘士たちが何処かに捕らえられている話を聞き、彼女はすぐさま協力を申し出たのだった。
「今度は私が彼らを救い出します」
その目には強い輝きが宿っていた。

アスガルドを襲った吹雪はいつの間にか止み、外では静かに雪が舞う。
思いがけない話を聞いた後、 ヒルダとしてはすぐにでも神闘士達の行方を探したかった。
だが、それよりもまず、イサに連絡をしてフレアを連れ帰ってほしい。 何よりもハーゲン達の事を妹に伝えたい。
しかし、イサが何処へ行ったのか皆目見当が付かない。
宮殿の者たちに尋ねてもフレアは絶対に安全だという意見しか聞かれず、彼をフレアの護衛につけた大臣たちも詳しい事を知らないらしいのだ。
この報告に、ヒルダと沙織は大臣たちがこのクーデターの首謀者ではなさそうな気がした。
「彼らは何者かに唆されたようですね」
沙織の言葉にヒルダは悲しげに頷く。
すると今まで沈黙を守っていたアテナの黄金聖闘士である水瓶座のカミュが口を開いた。
彼は沙織の護衛として、アイオリアと共にアスガルドに来ていた。
「宜しければ、イサという青年の部屋を見せてくれないでしょうか。 その人物がアスガルドの外から来たのなら、部屋に何かヒントがあるかもしれません」
アスガルドの妹姫が一緒ならば、護衛の青年はまず彼女の安全を確保するはずである。
出身地という理由で土地勘があれば、そこへ向かう可能性は高い。
ヒルダは一瞬躊躇ったが、行動範囲の広い聖闘士たちの協力を仰ぐことにした。
部屋を見せたことについては後でイサに謝ることにして、今はとにかく妹の無事を確認したかったからだ。

しばらくしてカミュは宮殿の人間と、目的の部屋を訪れる。
そして、ざっと周囲を見回した。
無駄が無いというよりも、イサという青年は何も持たずにアスガルドへ来たような印象を受ける。
机の上には箱とクラスターの水晶が置かれていた。
「……」
カミュはその水晶を手に取る。 箱の中を見てみると、走り書きされたメモが入っていた。

『生贄と迷宮』

(これは……)
物騒な単語ではあるが、カミュの心を騒めかせたのは言葉の意味ではなかった。
「これはイサの字です」
同じようにメモを見た宮殿の人間は、間違いないと断言をする。
(どういうことだ……)
メモの筆跡は己の弟子が書く字に似ていた。
カミュは自分の心に重く冷たいものを感じたのだった。