ANIME-目次

   

隠れる光 その1

その電話が鳴った時、城戸家の執事・辰巳徳丸は一瞬不吉な予感がした。
聖域から電話連絡がくるということは考えにくい。
では、自分を支配する嫌な予感は何故だろうか。
彼はつとめて平静なふりをした。

電話の相手は、麻森だった。
「博士。如何されましたか?」
『辰己さん。あの子たちに伝えてくれ。
早く逃げろ。 とにかく、見つかってはならない』
慌てているような言葉に、彼もつられて大声になった。
「どういう事ですか」
辰巳は聞き返したが、電話は勢いよく切られてしまう。
そこへ鋼鉄聖闘士として訓練を受けている少年たちがやってきた。

「辰己さん。どうしたのですか?」
ランドクロスの大地が尋ねる。
「大地と潮か。
いま、麻森博士が慌ただしく電話をしてきたのだが、お前たちに逃げろと言うのだ。
何か心当たりはあるか」
その問いかけに大地と潮は顔を見合わせた。
「博士は逃げろと言ったのですか!」
潮が辰己に詰め寄る。
「早く逃げろ。 とにかく見つかってはならない。
そう言っていたが、もしかして博士は何か犯罪に巻き込まれたのか!」
彼は再び受話器を持って警察に連絡をしようとした。
それを潮が止める。
「警察にはまだ連絡をしないでください。
とにかく博士の言うとおりにします。
沙織お嬢さんが戻ったら、こっちから連絡します」
二人の少年は素早く城戸邸から立ち去る。
辰己は何が何だか分からず、ぽかんと受話器を持ったまま立ち尽くしてしまった。

そのころ、麻森は公衆電話から出ると周囲を見回した。
そして大通りにタクシーの姿が見えると手を挙げる。
アーレスはその様子を離れたところからずっと見ていた。
(向こうと合流しなくては……)
そしてタクシーとは反対方向に立ち去った。

暗雲の立ち込めている空が、太陽を覆い隠す。
人々は少しずつ落ち着きを失いつつあった。