その電話が鳴った時、城戸家の執事・辰巳徳丸は一瞬不吉な予感がした。 聖域から電話連絡がくるということは考えにくい。 では、自分を支配する嫌な予感は何故だろうか。 彼はつとめて平静なふりをした。 電話の相手は、麻森だった。 「博士。如何されましたか?」 『辰己さん。あの子たちに伝えてくれ。 早く逃げろ。 とにかく、見つかってはならない』 慌てているような言葉に、彼もつられて大声になった。 「どういう事ですか」 辰巳は聞き返したが、電話は勢いよく切られてしまう。 そこへ鋼鉄聖闘士として訓練を受けている少年たちがやってきた。 「辰己さん。どうしたのですか?」 ランドクロスの大地が尋ねる。 「大地と潮か。 いま、麻森博士が慌ただしく電話をしてきたのだが、お前たちに逃げろと言うのだ。 何か心当たりはあるか」 その問いかけに大地と潮は顔を見合わせた。 「博士は逃げろと言ったのですか!」 潮が辰己に詰め寄る。 「早く逃げろ。 とにかく見つかってはならない。 そう言っていたが、もしかして博士は何か犯罪に巻き込まれたのか!」 彼は再び受話器を持って警察に連絡をしようとした。 それを潮が止める。 「警察にはまだ連絡をしないでください。 とにかく博士の言うとおりにします。 沙織お嬢さんが戻ったら、こっちから連絡します」 二人の少年は素早く城戸邸から立ち去る。 辰己は何が何だか分からず、ぽかんと受話器を持ったまま立ち尽くしてしまった。 |
そのころ、麻森は公衆電話から出ると周囲を見回した。 そして大通りにタクシーの姿が見えると手を挙げる。 アーレスはその様子を離れたところからずっと見ていた。 (向こうと合流しなくては……) そしてタクシーとは反対方向に立ち去った。 暗雲の立ち込めている空が、太陽を覆い隠す。 人々は少しずつ落ち着きを失いつつあった。 |