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87. 今必要としている物 / 瞬 他 (人によっては要注意かも)

女神ヘカテの神殿にて、瞬は眠りの神ヒュプノスから一組の指輪を渡される。
実はハインシュタイン城に到着するまで、指輪は二つともジュネの指にはめられていた。 ところがハインシュタイン城の一室で休んでいたとき、どういうわけだか冥闘士たちが様子を見にくるのである。 そのタイミングはいつも、瞬がジュネの事が心配で頬や髪に触れているときだった。
「何か用ですか?」
見られたと思いドキドキしながら尋ねると、彼らは
「特に変わったことはないか」
と、瞬に言う。
しかし部屋には入らない。 だから最初の三人くらいは我慢できた。
もしかすると城内で何かあったのかもしれない。 そうも考えるが、四人目からはさすがに苛立つ。
(まさか本当にジュネさんをエリュシオンのニンフだと思って、僕を警戒しているんじゃ……)
瞬は彼女の指にはめた二つの指輪をいったん外した。

ドアの方を確認するが、冥闘士たちが開ける気配はない。
結婚の女神がくれた指輪である。どんな意味を持つのか、知らないわけではない。そして彼女は眠り続けている。
「……」
それはズルイ方法だった。 でも、冥闘士の誰かがジュネを目覚めさせるという事態は絶対に避けたい。 そんな事が起これば、彼女の運命の人が自分以外の誰かであると証明されたも同然だからだ。
しかし、彼女が今も自分を好きなのか全然分からない。 夢の中で冥王に偉そうなことを言ったが、彼の方もジュネが目を覚ましてからの事に怖さを感じていた。
瞬の動揺を感じ取ったのか、黒いネビュラチェーンが一度だけ大きく床の上で動く。
「ジュネさん。異論があったら、この場で目を覚ますこと」
彼はそう言って、男性用の指輪を自分の左手の薬指にはめた。 すぐに未だに眠り続ける姉弟子の左手を持つ。
「この誓約を了承したと受け取るよ」
今度は彼女が目を覚ますのではと思ってしまい、手が少しだけ震えた。 とにかく深呼吸をして、ゆっくりと薬指に指輪をはめる。
目を覚ましてほしいという気持ちと今の状態をジュネに見咎められたくはないという気持ちで、彼の心臓はバクバク言っていた。
(誓いの接吻は……)
今の段階だと寝込みを襲っているようなものである。こればかりはズルすぎて、瞬はその先に進めなかった。


しばらくしてバジリスクの冥闘士シルフィードが部屋に様子を見に来る。
このとき瞬は、ジュネの美しい髪に触ろうとしていたところだった。
「特に変わったことはないか?」
その問いに瞬は、
「はい。大丈夫です」
と、にこやかに答える。
とにかく指輪のおかげか、冥闘士たちが様子を見に来ようとも大丈夫な気がした。

ところが自分が席を外したわずかな時間に、バルロンの冥闘士ルネが部屋に入ってきたのである。
そして、真っ直ぐジュネの傍まで近づいたのだ。 彼はこの現場を見てしまったとき、いつもの冷静さを失った。
「ジュネさんをどうするつもりだ!」
ネビュラチェーンが迷うことなくルネを攻撃しようとする。
そこへ間一髪で他の冥闘士がルネを部屋の外へ連れ出したのだった。

(あとで問題になったって、かまうものか!)
やはり冥闘士たちは油断も隙も無い。 そう確信した瞬だった。

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