○ 夢・カオル
荷物の搬入が近づくにつれて、カオルは一度は何もない状態の冴島邸で一晩過ごしたいと思った。
人の気配のない屋敷。それをスケッチしたいのだ。
でも、迂闊に鋼牙やゴンザにそれを言うと、危ないとかベッドだけでも搬入しましょうという事態になるのは想像がつく。
ということで、出来立てほやほやの合い鍵を使って彼女は中に入る。
本来、執事のゴンザが鍵の管理をしているのだが、カオルが日中自由に出入り出来るよう、期間限定で一つ預かっているのだ。
何しろカオルは思い立ったが吉日という動き方をする。ゴンザがそれに振り回されないよう、鋼牙が許可を出したのだ。
そのかわり、火気厳禁で台所は使えないようになっている。
カオルは夕暮れから早速スケッチを始めた。
火は使えないので、揺らめく炎を演出できる電池式のランタンでムードを出す。
屋敷内はしんとしていたが、これから鋼牙とゴンザの二人と一緒に暮らす場所なのでぜんぜん怖くはなかった。
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