○ 鋼牙とカオル
「カオル、大丈夫か!」
体を抱き起こされて、カオルは目を覚ます。
どうやら部屋の中で眠ってしまったらしい。いつの間にか毛布にくるまれていて、とても暖かい。
そして鋼牙が不安げにカオルの様子を見ていた。
「あれっ……、鋼牙?」
『なにをやっているんだ? カオル』
鋼牙の左手にいるザルバがヤレヤレといった様子で話しかける。
「えっ、もしかして寝ちゃった?」
周囲を見回すが、まだ外は暗いようだ。
「……しっかり寝ていた」
鋼牙は彼女を抱きしめながら、「良かった」と呟く。
だが次には眉間に皺を寄せて妻を見た。
「言い訳があったら言え」
「えっ、あの……何で鋼牙がここにいるの? もしかして探検??」
「お前と一緒にするな」
いくら結界に守られているとはいえ、明らかに危なっかしい行動である。
暗い屋敷内で彼女が階段から落ちてはいないか、怪我をしてないかと心配をしながら駆けつけたのだ。
なのに脳天気なことをいう彼女に、鋼牙はお仕置きをする事にした。
「ザルバ、今日は隣の部屋で寝ていてくれ」
そう言って鋼牙は魔導輪を外すと寝室の方の何もない床に置いた。
『まぁ、仕方ないな』
「ど、どうしたの、鋼牙?」
するとザルバがカオルにあることを教えた。
『カオル。この部屋とそちらの部屋は‘いい防音設備’が施されている。襲われたら実力行使で逃げろ。悲鳴くらいじゃ外には聞こえないからな』
「そ、そうなの?」
『達者でな〜』
そして部屋のドアは閉められる。もう中で何が起こっているのかザルバには分からない。
『やれやれ、緊急避難用の部屋というより、二人ッきりになるための部屋だな』
以前、冴島邸はシグマに侵入され、そのときの戦いでカオルが怪我をしたことがある。
この為冴島家当主は、侵入者から家族を守るために特別な部屋を用意した。
それはカオルとゴンザ、そして生まれていれば我が子を入れ、外敵から守る為の部屋である。
使うことがなければそれに越したことは無いが、鋼牙の立場では楽観出来ない。
『さて、俺様も寝るか』
広すぎる空間だが、こんなことは二度とないかもしれない。
ザルバは目をつぶった。
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