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鋼牙オオカミとカオル兎U その4

○ 鋼牙とカオル

  「カオル、大丈夫か!」
 体を抱き起こされて、カオルは目を覚ます。
 どうやら部屋の中で眠ってしまったらしい。いつの間にか毛布にくるまれていて、とても暖かい。
 そして鋼牙が不安げにカオルの様子を見ていた。
「あれっ……、鋼牙?」
『なにをやっているんだ? カオル』
 鋼牙の左手にいるザルバがヤレヤレといった様子で話しかける。
「えっ、もしかして寝ちゃった?」
 周囲を見回すが、まだ外は暗いようだ。
「……しっかり寝ていた」
 鋼牙は彼女を抱きしめながら、「良かった」と呟く。
 だが次には眉間に皺を寄せて妻を見た。
「言い訳があったら言え」
「えっ、あの……何で鋼牙がここにいるの? もしかして探検??」
「お前と一緒にするな」
 いくら結界に守られているとはいえ、明らかに危なっかしい行動である。
 暗い屋敷内で彼女が階段から落ちてはいないか、怪我をしてないかと心配をしながら駆けつけたのだ。
 なのに脳天気なことをいう彼女に、鋼牙はお仕置きをする事にした。
「ザルバ、今日は隣の部屋で寝ていてくれ」
 そう言って鋼牙は魔導輪を外すと寝室の方の何もない床に置いた。
『まぁ、仕方ないな』
「ど、どうしたの、鋼牙?」
 するとザルバがカオルにあることを教えた。
『カオル。この部屋とそちらの部屋は‘いい防音設備’が施されている。襲われたら実力行使で逃げろ。悲鳴くらいじゃ外には聞こえないからな』
「そ、そうなの?」
『達者でな〜』
 そして部屋のドアは閉められる。もう中で何が起こっているのかザルバには分からない。
『やれやれ、緊急避難用の部屋というより、二人ッきりになるための部屋だな』
 以前、冴島邸はシグマに侵入され、そのときの戦いでカオルが怪我をしたことがある。
 この為冴島家当主は、侵入者から家族を守るために特別な部屋を用意した。
 それはカオルとゴンザ、そして生まれていれば我が子を入れ、外敵から守る為の部屋である。
 使うことがなければそれに越したことは無いが、鋼牙の立場では楽観出来ない。
『さて、俺様も寝るか』
 広すぎる空間だが、こんなことは二度とないかもしれない。
 ザルバは目をつぶった。 


 翌朝、ゴンザが朝食を持って冴島邸にやってくる。
 荷物などは今日搬入ということで何もないため、彼の持ってきたレジャー用折り畳み式のテーブルと椅子を居間に置き、そのテーブルの上に弁当を置くというアットホームな朝食の風景となる。
「奥さま、今の季節、暖房器具のない家というのはとにかく夜間は冷えるものです。家具などが何もないというのであれば、尚更です。鋼牙さまが毛布をお持ちにならなかったら、もっとひどい風邪をひいて大変なことになるところでした」
「ご、ごめんなさい……」
 毛布にくるまりながら、カオルは熱いスープを飲む。
 喉が痛いのは一晩中、鋼牙に寝かせてもらえなかった為だが、そんな恥ずかしい話は出来ない。
 鋼牙はというと、いつも通りに普通に朝食を口にしている。
 まるで昨夜は普通に睡眠を取りましたという感じだ。
「カオル……」
 鋼牙が急に話しかける。
「なに?」
「……姫」
 急に夫の口から『姫』という単語を聞いて、カオルは顔が真っ赤になった。

  〜終〜